蜃気楼を貫く光
俺を撥ねたドライバーへ
はじめまして。
あの日、あなたの信号無視により撥ねられた者です。お手紙を拝読しました。
まず、あなたについて、僕は同情しません。あなたは無関係な人を殺しかけました。
僕は助かりましたが、それは結果です。
あなたは、間違えました。
あなたが今、何を考えているかはわかりませんが、おそらく後悔していると思います。それは自分が可哀想ではないと信じています。
正直、今でも、恨み言が口から出そうになります。でも、僕はあなたを糾弾する為にこの手紙を書いていません。
僕の夢を、あなたは消せなかったことを伝える為です。
確かにあの日、バスケで全国一位になる夢は終わりました。
僕自身、どうしたらいいのか、夢がなくなったと、自分では救済不可能な困難への、自分の無力さに泣きました。
そんな究極のピンチに追い込まれた時、一番支えてくれたのは、みんなとの絆でした。
あれから色々な人から話を聞いて、僕は今まで持っていた夢の正体を、僕なりに掴みました。
それは、目標に向かって歩いていく、信頼され、信頼を返せる仲間達がいる。それがあって、初めて、目標は夢になる。
だから、僕の夢はなくなりません。仲間達と新しい目標を見つけて、新しい夢を持つからです。
僕は、今、あなたを恨んでいません。
あなたは間違えた。それだけです。
あなたも、ここまで落ちて、これから信頼回復のために、あるいは蘇るために、努力するでしょう。
どんなことでも、そこに相手を思う心があれば、それは誰かの心に必ず届くと、僕は思えるようになったから、だから、この手紙をあなたに送ります。
◇◇◇
講義の最終レポートとして提出した手紙に、教授は別添えの一筆箋で「Thank you」と署名を付けて返してきた。
昨夜の23時、テレビの中で教授は「生まれてはみたものの」と経済格差や戦争の悲惨さを、講義と変わらぬ淡々とした様子で伝えていた。
学校のベンチで、真っ直ぐで眩しい、新しい光で優しい水色になっている空を見上げる。
太陽が真上に来る頃、学校の前にある赤いポストに、俺は手紙を投函した。




