Rain
「さて、雨が降り止まない、講堂の下。我々2人でタイムマシンに乗り、死人についての謎を解き明かす、とは穏やかとは言い難い」
「私は、君をあいつから引き離すことに賛成したのを後悔している。教えて頂きたい」
「音楽はお好きで?」
「素養としては修めたつもりだ。もちろん、君のような音楽家には到底及ばないが、それがどうした?」
「ああ、まあ、そう嫌な顔せずに。遺書のこの書き足されたと思わしき部分、縦書きで17文字ぴったり。漢字にするものや、しないもの、句読点も不規則だ」
「あの子はその最期、破れた腹の痛みで正気を保つのが難しかっただろう。書き損じ、それはあの子の苦しみだと思った」
「この「壊れた」クラリネットはB管で、僕が渡したのはA管。この漢字の部分を音符だとして、A管のクラリネットの楽譜に直せば、ベニイグッドマンのMemories of Youの一節になる」
「私に音楽は猫に小判だ」
「調べるぐらい、できるでしょうに」
「ふむ。歌詞と遺書と組み合わせると文意は『私も変わらず愛しています、偽物だけを壊して、ください』」
「同じ気持ちだと、僕は言いたい」。
「ああ、雨が屋根を突き破りそうだ」
「このクラリネット、タンポが上手く入っていないのが、いや、これは。クラリネットの中にメモが入っている」
「おお、クラリネットの分解は難しいと聞いたが、流石だな。どれ『本物のクラリネットは母の手で一緒に荼毘に付しました。貴方達が結婚を「人生設計」というならば、その失敗の責任もしっかりと支払いなさい。あの子の苦しみを考え抜いたのなら、クラリネットを壊して先に進むのも、生きる勤め』、か」
「このクラリネットは、僕なのか」。
「君のあの子への手紙、クラリネットは変わっても、音色は変わらない。耳触りが異なってもクラリネット音色はその奏者の本質を表す、だったか」
「人のラブレターを読むとは感心しないが」
「さて、雨が止んだな。せっかくだ。そのクラリネットの音色を聞かせてくれないか」
「瑞香迷わす 霞草
あふみの鰯 追い立てて
5色に迷いし 宵の夢」。
「何か言ったか?」
「いや、なにも」。




