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Guys with the Dragon Tattoo   作者: Coppélia
4月 The Last Emperor
33/64

雨酔草

「こうして、雨の西本願寺の御堂で、君と向き合って座っていると、雨音と蝋燭の揺れる熱、線香の残り香に誘われて、場所も時間も、感覚として失われてしまう気がするな」


「見上げてみれば 遥かなる

遠き人見た 月明かり 

起きもせず 寝もせで明かす 草俵

藍蒔く田畑に 結ぶ氷よ


まあ、お堂がタイムマシンでタイムトンネルにでも入った、のかもしれない」


「遥か彼方から、変わらぬ月明かりに照らされる君の心は、愛を捧ぎしも、憎しみに沈みしも夢のあの子にだけしか、動くことはない。愛を蒔く田畑は凍りついてしまったのだから」

「感情とは精神の運動なのかもしれない。肉体と同様に運動していなければ錆びついてしまう」。


「ああ、雨が強くなってきた。どれ、そのストーブの上のやかんを取ってくれ。さて、妹は死んだ。君はジャスクラリネット奏者としては優秀だが、所詮は一般庶民のちんどん屋。由緒ある銀行家の娘で、著名な小説家の妹が嫁ぐ家柄ではない。女性にとって結婚は人生設計、恋愛でするものではない」

「今現在、あいつは死んだし、僕はもういない。貴方は、なんで、今頃になって、僕に会いに来たのか、僕には、わからない。しかし、せめて急須ぐらいはなかったのか、ぐい呑みに茶漉しをぶっ刺して飲むとは、山賊もかくや」

「アルマーニのスーツを着た山賊。新たな本が書けそうだ」

「さぞかし、見掛け倒しで品のない山賊が活躍する昼ドラを、僕は見たくない」。


「さて、妹が死んだ原因は、直接的には、急性虫垂炎、左腹が破裂した。原因は気患いで、君ではない相手と結婚すること。遺書にあった手遅れになるまで、腹部の痛みを黙っていたことの爛れた恨み、父やその秘書たちに対する濡れた復讐は、私が読んでもゾクリとする素晴らしい文章の才能に溢れていた」

「日本文壇の最高権威である貴方に褒められたなら、あいつも喜ぶでしょう。あんたがたが、金の卵を産む鶏を殺したのを、悔しがる様子を心から」。


「おや。線香が切れてしまったか、どれつけ直すとしよう。君は我が父の説得によりアメリカへ留学し、あの子と離れた。父が指摘した通り、日本だけで音楽をやっていく現実は、あまりに厳しい」

「続けて」

「ほら、これでよし。どれ、立ち上がりついでに、やかんに茶っぱも足しとくか。そして、そのままアメリカでデビュー。演奏者としての階段をさらに上がり、あの子が死んで、気がつけばドイツはハイデルベルク大学付属の市民学校の日本語講師になっていた」。


「あのー、過去形にするのはよして頂きたい」

「なら、なんでついてきたと訊く野暮にはならんよ。まず、君からの手紙は本物か」

「本物だ。僕はこの手紙とともにクラリネットをあの子に贈り、約束をした。いつか、君が街角で、僕の音色を聞くだろうと」

「本来なら三回忌に開示される予定だったあいつからの手紙には、一緒に君からのクラリネットがついていて、遺書にはこのクラリネットを壊せとある。しかし、このクラリネットはすでに壊れていて、音が出ない」

「ああ、そしてこの「遺書」」

「この遺書を託されていた母から、間に合わなくなる前に、君に会いに行けと言われた」

「わかりませんか?なら、そのクラリネット、僕にください」。

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