スワンプマンの夢
「それにしても、この時期のシュパーゲルは本当に美味しいな。このマヨネーズみたいな、ぽってりした月色を纏った肌色のソースが、真っ白な繊維質に絡みつき、その艶姿を咀嚼すれば、瑞々しく弾けて口腔を潤していく」
「単に白アスパラを茹でただけだが、まあ、日本ではシンプルなだけに珍しいのかも知れない」
「あいつは君が好きだった。あいつのことは君が覚えている。ならそれが最もシンプルな幸福だ。大抵の不幸は金で片がつく。君と私の互い違いも些細な事。大切なことは、君のクラリネットの音色を絶やさないことだ」
「ああ、だから、ね。もうこの際、はっきりいうしかないかも知れませんね。金持ちなんて、糞食らえ」。
「君は本当に手厳しい」
『煮豆燃豆萁豆在釜中泣本是同根生相煎何太急』
「七歩進んで、退店をどうぞ」
「何故、君はそこまで頑ななのかね。お姉さん、追加で炭酸水とフラムクーヘンも頼むよ」。
「いやー、食った。この国にしては、いいお店だ。この街は中華料理屋もないし、君を何処へ誘うか困っていたんだ」
「その割にはスマートなエスコートを受けたがね。まあ、とりあえず、付き纏わないでくれないかな」
「何を今更。もう少しぐらい、思い出話に花を咲かせようと洒落込もうじゃないか。ほら、丁度良さげな城の隅櫓から、街が綺麗に見えそうだ」
「あいにく、僕は授業の時間なんだが」
「ああ、そうそう。君の今日の授業は急遽入った取材で中止だと社から連絡させたので、1日空いている。君の代わりの日本語講師も連れてきているから安心して欲しい。時間を作ってくれてありがとう」。
「それで一体、今更何の用で」
「いや、なに。君が吹くクラリネットが恋しくなってね。まあ、私を道化にしたふざけた連中は一掃したし、あいつから君を引き剥がした奴らには鉄槌を下した」
「それはどうも」
「あいつも落ち着いただろう。三回忌前に片付けられて、私も妹に漸く顔向け出来る。さあ、次は君との約束だ」
「僕は貴方とは約束をしていない」
「もう4月だというのに、やけに風が冷たいな。身分違いだと時代錯誤も甚だしい馬鹿どもも、君や私が愛したあの子ももういない。その約束だけを残して」




