非武装中立な魔王様
あーあ。
眉毛がへの字に曲がってやがる。
「起きられましたか」
「ぇ、ぁあ、こ、ここは?」
「記憶はありますか?貴方はステージで倒れました」
目の前で起きた【奇跡】
ああ、神様
「・・貴方は、脳幹出血で倒れ、意識を失い、誰もが助からないと思っていました」
「え?あれ?身体が動きません。あれから?」
「落ち着いて聞いてください。貴方が倒れてから1年経ちました」
「え?あ、みんなは!?」
「落ち着いて。動かないで。血管が傷つきます。落ち着いて、聞いてください。みなさん無事です」
「ああ、よかった。あ、心配なのは家に猫がいるんです。あの子は?」
「無事です。まずは意識を取り戻せたことをみなさんに伝えます。安心してください」
「は、い」
「また、すぐに眠くなってくるでしょう。大丈夫、今は寝てください」
「そうですか」
おい、それ信じるのかよ。
「あほか?」
「あ!おい、みんなは?」
「みんなは、じゃねーよ。ああ、呼吸器付けたままで動くな。」
何、情け無い顔してんなよ「魔王様」。
骨と皮だけまでに痩せ細って、身体中、脳に酸素を入れる為に首にまででかい管入れられて、なんとか生きていたのを、どれだけみんなが祈ったと思ったんだ。まあ、猫より先に俺達を心配したことにちょっと驚いた。
死ぬのは、悪いことじゃない。誰しもに訪れること。だけど、どれだけ奇跡的かわかっていても、生きていてほしい。一緒にいられる奇跡を、もう一度、俺たちにください、神さま。
もう一度、眠りにつくこいつを見るのが、本当は怖い。もう、目覚めなくなりそうで、痩せ細って、指先が冷たくなった手に、熱が伝わるように握りしめる。
「容体は?」
「意識が戻るのが、すでに奇跡です。あとはこの奇跡が何回続くのか、そして彼の精神力の問題です」
「精神でどうにかなるなら大丈夫、こいつは頑固なんで。」
「彼の生きたいとする精神と我々医療がマッチすれば、きっと彼は再びみなさんと会えますよ」
「ならマッチするでしょ。こいつは運がいいんで。」
「神さまに愛されすぎると、連れて行かれますよ」
「神さまにはいつか、みんなで会いに行くって伝えてあるんで。」
一般長期治療室から集中治療室に搬送されていくあいつの手を握り、祈る。連れて行かないでくれ、行かないでください、神さま。
どうか。
どうか。
また呑気に眠っている「魔王様」を見送って、俺は、携帯電話が使えるエリアに歩き出した。




