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Guys with the Dragon Tattoo   作者: Coppélia
5月 Menuet k.1
12/64

空をかける浪漫

「行くぜ!」


そんな新人研修兼ねて初めて行ったスペインは、何もかもが明るくて、ビビットで「興味ない」なんて言ってられなかった。


白い太陽、青い空、影すら美しい世界に、どこまでも続く丘に海。山育ちの俺には想像だけの世界だったのが、質感を持って広がっていた。


色々な「スペイン料理」を食べる。100人以上の大箱から路地裏の店まで、雰囲気を感じ、味を探して、覚える為にひたすら食べる。その中でも気になったのは、バスク地方を巡った時に入った店だ。


マイクロバスで入っていく小さな村にある、密集した箱型の民家のひとつがやっている小さな食堂。食堂の裏側は細い水路で水車が「からころ」と音を立てていた。


そんな田舎町の食堂は正面に暖炉が据えられ、赤銅のシチュー鍋と琺瑯鍋が暖炉の上で保温されていた。


「バスク料理というものは実はないんだよね。ヨーロッパの昔ながらの料理が保存されているっていうのかな、基本的に塩味しかないんだよ」


一緒に回ったガタイのいいおっさんが教えてくれた。フランス料理のシェフでスペイン料理は初めてなんだってさ。


小さな娘さんがいて、休みの日は一緒にお菓子作りをしているなどいちいち煩かったが、お菓子作りについて教えると喜ばれた。


年季の入った琺瑯鍋の中にはオイル漬けのウズラ、シチュー鍋にはエスツェカリという野菜スープが入っていた。


本日のランチ10€80¢。


会社の経費だからと同僚たちは、いのしし肉とウナギのぶつ切り煮込みとか豪勢なランチを食べたけど、俺はこのふたつの鍋と暖炉が気になった。あのパンケーキと同じように感じた。


小さなウズラの肉をほぐしながら、パンに乗せて食べていると、窓の外の緑が眩しい。


石を漆喰で塗り固めた建物は、石の部分が煙で燻されて薄いクリーム色になっていて、その外の緑と野ばら、太陽と、建物内の影のビビット感を背景とした、ところどころ擦り切れたピンクのテーブルクロスの上にあるウズラとパンと野菜スープという茶色い食べ物は、どこか現実的ではない気がした。


なんだろう、今食べている食べ物が「聖餐」に見えたんだ。

なんでこんなところで「これ」を僕は食べているんだろう?


これを、母さんに食べさせてあげたかった。

僕は料理が下手で、よく母さんを困らせていたから。


「本日のランチ、イカ墨のリゾットです」


スペイン研修から戻って、無事に日本で働き始めた。塩味をベースにうまみを引き出す引き算なバスク料理を意識した料理作り。


俺は店ではスペイン料理を作りながら休日は食べ歩きをして、よりよい料理や流行りの店の研究に費やしていた。


そんなある日のこと。共有PCの勤怠画面を開いたら、こんな告知がポップアップされた。


『社内コンペ開催!入賞者は2年間国外で修行できます!』


「ドクン、ドクン」


いきたい。心臓の音が耳近くで鳴っている。

あの太陽の下で、働いてみたい。


先輩に連絡すると、「ケラケラ」と笑いながら今のトレンドを教えてくれた。


先輩曰く、今のトレンドは「家では作れない」「持ち帰り可能」「パーティ映え」「食べやすい」だった。


俺の得意な料理はお菓子。だから、お菓子と料理を合わせたものを考えた。


先輩にも相談しながら、今のトレンドをベースに魚の形のエスプーマにした白身魚を作成し、一口サイズの小さな塩味のパイを並べた。


「スイミー」の大きな魚と一緒だ。小さなパイはホタテやサーモンなどを詰め込む。エスプーマでパイが湿らないように、エスプーマの表面は軽くあぶった。


持ち帰りの場合はベースを白身魚を混ぜたメレンゲにして、焼き上げるようにした。店の味と持ち帰りで違うところがこのレシピの売りだった。


まずはレシピを会社に提出し、次に実際に審査員の前で作り、そして、この一言を貰えた。


「3位おめでとう」


見事勝った俺は、会社の伝手を使って、バスク第4の都市サン・セバスティアンで働き始めた。

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