邪神
ぴちゃん、ぴちゃん、と天井から滴る水しずくがレインの顔に落ちる。
「ううっ」
いったいどれほどの時間気を失っていたのだろうか。
目覚めたレインは周りを見渡し、ここが先ほどまでいた場所でないことに気づく。
「ここはどこだ?」
あたりを見回してみると、先ほどまでいた場所と明らかに違うことがわかる。
じめじめして薄暗く、不気味な骸骨の彫刻があたり一面にある。
「とりあえずここから出ないとな。出口はどこだろう。」
出口を探しながら数分ほど歩くと大きな扉が現れた。
両脇に不気味な人?のような石像があるが、見ているだけでとてつもない悪寒が霊威を襲う。
「出口はここしかなかったしな。気味が悪いけど入るしかないかな。」
そういって扉に手をかけようとしたとき、突如扉が開き始める。
「っ!どうして勝手に開——」
「ほう、久々の生贄か」
扉の奥から突如として声が響いてくる。
聞いただけで全身が震え上がってしまうようなその声に、レインは思わずしりもちをついてしまう。
「何をしている。さっさと来い。」
すると、何も触れていないはずのレインの体が勝手に浮かび上がり、扉の中へと引っ張られる。
「うわっ、なんで体が勝手に引っ張られるんだ!なんなんだよ!意味わかんないよ!」
突然のことにレインが慌てていると謎の声の主が言う。
「騒がしい奴だな。少し黙れ。」
すると先ほどまで騒いでいたレインが静かになる。
いや、この場合は声を出したくても出せないといったほうが正しいだろう。
「ふむ、久々の生贄だから期待してみたが、魂が熟成しておらんではないか。」
——魂の熟成?いったい何を言ってるんだ。というよりこいつはいったい何なんだ?
「おい!外の悪魔どもはいったい何をしている。なぜ貴様のような未完成の生贄を連れてきた。」
少しいら立つ謎の存在に、レインは気力を振り絞り答える。
「……悪魔?なんだそれ。」
「何?悪魔のことがわからないだと?少し待て……ふむ、なるほど、あいつらは今はいないのか。となると貴様は偶然ここに来たのか。」
一人納得している謎の存在にレインは再度聞く。
「偶然……?」
そう問うレインに謎の存在は答える。
「ああそうだ。貴様は年に一度だけこの神界とつながる転移陣に偶然乗っかりここへ来たのだ。邪神であるこの我の元へとな。」
「だ、だったら俺をもとの場所に返してくれ。偶然生贄じゃないのに来たんだったらいいだろ?」
「いや、ここへ来たからには理由がどうであれ生贄になってもらう。ただ、このままでは熟成が足りぬからひと手間加えよう。」
そういうと邪神はその右手をすっと前に掲げる。
すると右手に濃密な闇が集まる。
そして人々の憎悪、苦しみを濃縮したかのような闇は指先から解き放たれ、レインの胸の中に吸い込まれていく。
「いったいなんだ?」
そうつぶやくレインに対して邪神は恐るべきことを口にする。
「人間の魂は激しい憎悪や苦しみにさらされ続けると濃厚な物へと熟成される。だから貴様の魂を熟成させるために呪いを送らせてもらった。
一つはすべての人から憎悪の感情を向けられるもの、もう一つは不死の呪いだ。死にたくても死ねない、永遠に続く絶望でせいぜいその魂を熟成させるがよい。」
「…すべての人から憎悪?不死の呪い?いったい何を言ってるんだ。」
いまだレインは自分の身に起きていることを呑み込めていない。
「ふむ、このまま返してしまうと我が食べれないからな、100年たったら我の元へ強制的に来るようにしておくか。」
「まてよ!俺にいったい何をしたんだ。早く元に戻——」
「相変わらずうるさい奴だな。せいぜいその魂を熟させるがよい。ではさっさとどこかへ行け。」
そういって邪神がパチンと指を鳴らす。
すると先ほどまでそこにいたのがウソのようにレインの姿が消える。