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気が付くと俺は森の中で目を覚ました。
森の中は薄暗くまだ太陽が昇りきっていない早朝のようだ。
身体を起こし自分の体を確認する。
服はいつもの寝巻の真っ黒なジャージではなく、仕事に行くためのスーツ姿に革靴。
にもかかわらず、ビジネスバックもスマホも財布もない。
本当に着の身着のままの姿だった。
ぶひ~、スーツってのは窮屈で困る。
デブには・・・違う、小デブにはきっちり首元までボタンを閉めるのはキツイぜぇ。
「・・ここどこだ?」
まあ、それはそれとして、森の中で服以外にないってかなりマズイ状況では無いか?
そもそも、なんで森にいるんだ?
そんな疑問を覚えながら俺は森の中を見回していると、当然頭の中に聞き覚えの無い声が響き渡った。
『お主はまだ死ぬべき時ではない。その地で生きながらえよ』
挨拶もなく、出だしから意味の分からない事をのたまう変な声。
というか、脳内に直接声が響く摩訶不思議な現象を起こっているのだが・・・。
『この地をそなたに与える。その命尽きるまで、好きに生きよ。安易に死を選ぶことは許さぬ』
なんか偉そうに、なぜか死ぬなと命令される。
言われんでも誰が死ぬかと思うが、初めに発した冒頭が気になった。
まだ死ぬべきではないとか言っていたよな。
なんかその言葉から俺が一度死んだみたいな風なのだが・・・俺死んだの?
と言うことは、これって流行りの異世界転移的な?
『主の輪廻の輪が整うまでゆめゆめ自殺などせぬように』
最後にそう締めくくると、偉そうな声は聞こえなくなった。
一度だけ、偉そうな声の主に呼び掛けてみるが、特に反応はない。
「ドッキリ・・とかじゃないよな」
一般人にドッキリを仕掛ける意味もないだろうし、そもそもテレビ局にドッキリの応募する友達もいない・・・・別にボッチと言う訳ではないぞ。
ただ親友と呼べる友達も、無駄にノリの良い友達もいないだけだ。
毎日仕事、仕事の日々で、休日の日などは家で寝て食って、ゲームして食って寝ているくらいだ。
たまに職場の人達と飲みには行くが、ぶっちゃけ社会人になってから昔の友達とわざわざ集まって遊ぶなんて事はしない。
そう考えると、やっぱり異世界転移的なやつだろうか。
特に死んだ覚えも、神様に会うなんてイベントも無かったのだが・・。
「う~む」
もろ手を挙げて俺最強ができると喜べばいいのか、それとも、家に帰してくれと泣き叫べばいいのかわからん。
特に今勤めていた会社もブラックと言う訳でもホワイトと言う訳でもない灰色の会社で、人付き合いも可もなく不可もなしと言った感じだった。
刺激が無くとも暇ではない。
彼女はいないが、寂しいとも欲しいとも思わなかったからし、家族も他界して、兄弟もいない。
何だろうな。
帰れるなら帰ってもいいけど、別に帰らなくてもいい感じで全然悲しくはならないぞ。
「まぁ・・・・うん、まずは・・・どうするか考えよう」
なんでこんなことになったのかわからないが、まずは今の状況を少しでもしろうと、俺は薄暗い森を見回す。
人が通る道はなく、獣道すらない。
草木をかき分けなければ歩けなくはないが、そこまでして歩きたいとは思えない。
だが、今の自分は何も持っていない。
異世界転移とかそういうのは置いておいて、着の身着のままの状況はかなりマズイ。
「起き抜けのせいか、水が飲みたいな」
今すぐ水が必要と言う訳ではないが、遠からず喉の渇きは限界に達するだろう。
「まずは水だ。あとは歩きながら考えよう」
サバイバル経験などあるはずもないが、流石に水と食料が必要なのは考え着き、彼は腹を揺らしながら、未開の森へと歩み出した。