表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/206

ファイヤーバード(2)

 拿捕した航宙艇と二機の大破させたアストロウォーカー、最後に中破させた機体からパイロットを引っぱりだして連行する。頑強に抵抗したパイロットを取調室に放りこんだ。


 そこは警備艇フォニオックの中。登録は星間(G)保安(S)機構(O)、つまり通称『星間警察』のものになっているが、実際に運用しているのは司法巡察官のファイヤーバードである。


「で、どうして逃走したのか教えてください、ナダラ警備保障(セキュリティサービス)のマキル・ボンボさん?」

 エルドは問い詰める。

「アストロウォーカー乗りなんて荒事稼業にどっぷり浸かってる奴なんか、どっか脛に傷持つ人種に決まってる。警察と仲良くするかよ」

「ほう。ですが、あなたには目立った前科は無いとされてますよ?」

「上手にやってたってだけだ」


 管理局の戸籍統合活用センターに問い合わせればプロフィールはすぐに出てくる。同姓同名など掃いて捨てるほどいるが、顔認識まで含めれば個人の特定など難しくない。国籍から住所、家族構成、職歴など多様な個人データを閲覧する権限が刑事にはある。


「上手くやってたってのは、上の話なんじゃない?」

 だらしなくも、聴取卓に尻を乗せている彼女が問いかける。

「ナダラSSはクスエド販機の傘下企業でしょ? その上にいるのは? いわずもがな、よね」

「買いかぶってくれるね。俺みてぇな下っ端にまで目をかけてくれるとでも思ってんですかい?」

「なにしてたか。それしだいじゃない?」

 妖艶な視線を送っている。

「真っ赤な髪の凄腕美人巡察官(インスペクター)がいるって噂に聞いた。あんたのことですかい」

「あーら、今の発言でちょっとだけ減刑してあげる」

 むろん冗談だろう。


 だが、容疑者の発言内容は正鵠を射ている。ファイヤーバードはたしかに美人だとエルドも思う。


 インパクトが強いのは真っ赤な髪。くすんだ感じは全くなく、つやつやと美しく真っ直ぐな髪である。それが腰まで伸ばされている。

 前髪は目元を隠すほどの長さだが少し右で分けられている。その隙間から覗く切れ長の緑の瞳が神秘的な光をたたえて輝く。


 黒人系の血が強く出ていて肌は浅黒い。そこにある濃いめの眉や通った鼻筋、自然な笑みを形作る唇が相まって、彼女の神秘性をより高めていた。

 それでいて右目の下にある泣き黒子(ぼくろ)が情を表しているようで人間っぽさを演出している。総合的に見て、人の目を奪うような美人系だと思う。


 着ているのはフィットスキンと呼ばれるパイロット用ラバースーツ。耐衝撃耐刃防曝性に優れた代物。

 エルドの地味な紺色のそれとは違い、彼女のフィットスキンは白をベースに肩から二の腕や胸元、太ももなどに赤があしらわれている。鮮やかさに目を奪われると、そこには魅惑の曲線が描かれていた。


 降機後は真っ赤なブルゾン、耐衝撃パッドを内蔵したパイロットブルゾンと呼ばれる厚手の物を羽織っている。こちらはそこかしこに白のラインが入っていた。

 スライダーで留められていない今は、ファイヤーバードの胸元は隠されていない。フィットスキンが孕んでいるバストパッドで余計に強調された隆起は男の目を惹きつけてやまないほど。

 そこからキュッと絞られたウエストに続き、艶やかな放物線を象るヒップラインが露わになっている。鍛えられているのに硬さ感じられない類のまろやかさだ。


(はっちゃけた言動さえなければ今頃は心を奪われてたんだろうけど)

 残念ながら会ったときから彼女はこうなのである。


「地元警察とすったもんだなら解るわよぉ?」

 彼女は尻に貼りついた視線を手で払いながら尋ねる。

「でも、あたしたちが宙港に着いた途端、『GSO』のロゴを怖がるみたいに出港準備をはじめたら疑ってくださいって言ってるみたいなもんじゃない? つまんない暴力沙汰とか星間警察が取り締まったりしないってのは常識でしょ」

「う……」

「国家警察の捜査協力には応じられないというのも常識ですね。我々星間警察は管轄の広さのわりに人員が限られていますので」


 どちらかと言えば星間警察側が捜査案件に関して地元警察に協力依頼をする側になる。星間銀河加盟国であれば、GSOの依頼に否を唱える者は少ない。上位権限を持っている。だから、本来は公開されない宙港の管制情報なども要請すれば得られる。


「そんな動きをするなんて後ろ暗いことに心当たりがある人間だけよねぇ?」

 逸らされた視線の先を指でトントンと叩く。

「例えば海賊行為とか」

「いやいや、待ってくれ! 俺はたしかにナダラSSの社員だぞ? 警護はしても略奪行為なんてするわけがないじゃないか。むしろ最近は被害を受けているほうだ。調べてんなら分かってるんだろ?」

「そうなのよねぇ」


 ナダラSSは海賊行為の被害者側というのは事実である。昨今、社員に行方不明者が頻出し、殉職者として処理されていた。


(迷彩はかけてありますが、そこが疑わしいところなんですよね。傾向に偏りが見られるんです。とある企業に将来的に有利に働きそうな偏りが)


 それがファイヤーバードの見立てであった。

次回『ファイヤーバード(3)』 「強欲ねぇ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……□ジャー=○ミスみたいな感じ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ