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リトルベア(2)

「首つっこむ気なのかよ」

 オグルはツーショット画像を親指で示しながら渋い顔をする。

「こいつはどこをどうひっくり返したって重要情報だろ?」

「あの子が自分から渡してきた画像なんだから、あたしの好きにしていいってこと。それに渡したってどうせ消される」

「たぶんな」


(消さないのは星間管理局のプロテクトを突破できないから? それともあたしの手の内にある分にはそのままにしておくってこと?)

 判然としない。

(後者だとしたら、これはディノの心の奥底があげている悲鳴なのかもしんない。止めてほしいって)

 そんな気がしなくもない。


 少年は善人ではない。だが、それなりの時間をともにした印象でいえば悪人だとは一概に言えない。少なくとも快楽殺人犯とは違うように思えた。


「深入りすると命がいくつあっても足りなくなりそうな相手だぜ?」

「分かってる。だから付きあえとは言えないけど」

 夫妻に真剣な視線を送る。

「いまさらだ。俺たちゃチームだろ?」

「悪いわね。結構な確率で航宙保安に関わる案件がある。追う意味があるわ。それにどうやらテベレフィの時から絡んでいたみたいなのよね」

「あん時からか」


 今思えば、ナダラK68の航宙障害も少年の仕業ではないかと思えてきた。彼女に素早く解決させるために。


「だから、あたしが動いたって別にいいとは思うんだけど……」

 ちょっと扱いが難しい。

星間(G)保安(S)機構(O)に担当してるチームがあるわよねぇ?」

「あるだろうな。渡りをつけとかなきゃなんねえ」

「スジ通しとかないとうるさそうだし。対立はしたくない」

 同じ捜査官でも部署が違うので煙たがられそうだ。

「問題ねえだろ。司法巡察官ジャッジインスペクターには逆らえねえ」

「エルド君じゃ融通利かなさそうだから、私のほうからやんわりと伝えとくわぁ」

「よろしくね、アデリタ」


 ジュリア以外のチームメンバーの所属はGSO。それぞれに顔が利くくらいには優秀な人材ばかり。


「ジュリアの印象じゃ無差別ってわけじゃないのよねぇ」

 アデリタがエフェメラのブースを使って本格的な検索をはじめる。

「この子にはなにか動機がある。それなら事件同士の関連性があるんじゃないかと思うんだけど」

「そんなんはGSO(うち)の担当チームが散々洗ってんだろ。判明してたらもうちっとは捜査が進んでんじゃねえのか?」

「あなたの言う通りよねぇ。犯人情報の少なさからして、一向に追えてないみたい」

 彼女が拾える捜査情報もかなり少ないようだ。

「テベレフィの不正競争防止法違反も含めて、全ての案件にルジェ・グフトが関わってるのは間違いないんだけどぉ」

「そんなのは当たり前だ。奴の名前を聞くバングリア、オッコス、クシュタルの宙区でルジェ・グフトが関わってない惑星国家や大企業はねえ。中小企業でさえなんらかの形で繋がってんだろ?」

「そこから探っていくのは無理みたい」


 超巨大複合企業(コングロマリット)の活動範囲は広い。製品は星間銀河全体に行き渡っているし、関連企業だけでも三つの宙区にまたがっている。

 端から端まででいくと距離だけでも二万光年を超えるだろう。惑星国家で数百に及ぶだろうし、関連企業など数えるのもばかばかしい。


「捜査チームも動機をはかりかねてるわぁ」

 次々と資料を読み漁っていく。

「例えばペロンドの輸送船強奪なんかは足がつきやすいでしょ?」

「売り払えば、そこから繋がっていくものね」

「でも、貨物はどこにも出回ってないの。相当足を伸ばして闇マーケットまで洗ったけど突き止められなかったって。営利目的じゃないのよね」

 そういう結論になる。

「活動範囲がべらぼうだ。それにかなりの戦力を持ってねえとどだい無理な犯行が多い。こいつは本当に単独犯なのかよ」

「でも、艦隊どころか戦闘艦の目撃情報さえないのよぅ?」


 調べれば調べるほどに謎が深まる。捜査チームの苦労が窺い知れてしまう。


「別の線で洗うか」

 オグルは早々に見切りをつける。

「俺らが握ってる情報でいくしかねえ。リトルベアは名乗ったんだってな」

「そ。ディノ・クレギノーツだって。どうせ偽名だろうけど」

「一応検索してみる」

 アデリタが調べる。

「いるよ。珍しいファミリーネームだけど、おじいちゃんが一人とおじさんが二人。年の頃で合致する子は容姿の特徴重ねると消えちゃう」

「そうなるわよね」


(あたしだって偽名で活動してるくらいだもの。犯罪者のあの子が実名でうろうろしてるわけがないわ)


 入出国の手続きは別の名義でしているのかもしれない。普段使いの偽名と身分証明も複数使い分けている可能性がある。


「あとは身体のほうか。こいつはどう見たって違法改造サイボーグだろ? そっちの線は?」

 普通はそう思うだろう。

「違うの。彼は生身の人間よ」

「馬鹿を言うな。そんなわけがねえ」

「なんか誤解があるんでしょ? そう思った根拠は?」


 彼女はディノと触れあったときの感触について説明する。少年が見た目上や触れた感じではどう考えても生身だとしか思えないと。


「つまんねえ嘘ついても仕方ねえし」

「ジュリアが化かされるとも思えないし」

 いつもの悪ふざけという選択肢もない。


 ジュリアと一緒に二人も頭を抱え込んだ。

次回『リトルベア(3)』 「そもそも無理なのよぉ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 謎は深まるばかり……。 (過去作に”身体能力に優れた少年”も居たなぁ?)
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