パパと二度目の冬 ⑤
「この国にとって、あの魔物を倒せたら凄いことなんだね」
「そうみたいだな」
騒ぎを見届けてからわたしとパパは宿に戻って、一夜が明けた。
昨日の大きな魔物。名前はティラノマンモスって呼ばれる魔物らしい。
このあたり周辺の地域での魔物の支配者とも言える存在。その圧倒的な強さを持つ魔物は、アイスワンドの中では狩れれば英雄になるのだとか。
わたしじゃとてもじゃないけれど倒せない魔物だろう。少しずつ魔物退治や魔法や武器での戦いもパパから習ったけれど、まだまだああいう魔物を倒せるだけの力はわたしにはない。
「ねえ、パパ。街の外も色々みたいから連れてって」
「ああ」
パパがわたしの言葉になんでもないかのように頷く。
アイスワンドの街の外は、厳しい場所だから観光客は下手に出ないようにって言われているらしい。でもパパはそういう厳しい環境だろうとも何も関係ないのだ。
魔導師とはそういう存在なのだろう。
パパの子供になって、パパに色んな場所に連れて行ってもらえばもらうほどパパが規格外なのが分かる。わたしのパパは本当にすごいのだ。
王都の外に出る時に、兵士の人に心配された。小さな子供であるわたしを連れて外に出ると言うから。結構吹雪も吹き荒れているので、そういう心配をしたのだろう。でもパパが魔法使いだと知ったのと、わたしが「パパと一緒なら大丈夫」って笑っているから諦めたようだ。
心配してくれるなんていい人たちだなって、わたしはこのアイスワンドの人たちが好きになった。
「パパ、此処の人たち、優しいね。わたし、すっかり好きになった!」
パパはわたしの言葉に笑っている。
笑みをこぼしているパパは、やっぱりとても美しい。パパに抱きかかえられながら、吹雪の中を進む。わたしは足がおぼつかなかったから、パパが抱きかかえてくれたのだ。
「何だかすごいね! あっ、魔物だ」
鳴き声をあげながら、わたしたちに向かってくる魔物はパパの魔法により息絶えた。パパはさらっと魔物退治をするなぁ。その驚くほどに素早い魔法は毎回見る度にほれぼれする。
パパと一緒に、こういう場所にだからこそ咲く植物などを見る。
雪の結晶のような花弁の花とか、本で見たことがある不思議な植物も見かけられた。手に取ったらすぐに崩れてしまってびっくりした。
「ベルレナ、この植物は錬金に使えるが、今みたいに崩れやすい」
「どうやって採取すればいいの?」
「魔法を使えばいい」
パパはそう言って魔法を使って、土ごと採取する。なるほど、土が一緒じゃなきゃダメなのね。それにしても魔法ってやっぱり凄いなぁ。わたしも同じように出来るだろうか? と試してみたけど上手くいかなかった。
攻撃魔法だと、魔物を倒せればいいからそこまで繊細な操作はいらないけれど、これはちゃんとしないと上手く採取出来ない。無詠唱で簡単にパパはやっているけれど、難しい!!
「パパ……出来ない」
「練習すれば出来るようになるさ」
「うん、頑張る!」
パパは次々と魔法を使って、採取をしたり、魔物を倒したりしていく。わたしも魔物を倒そうとしたけれど、こういう冷たい所で生きている魔物は毛が深くて中々攻撃が通らなかった。
パパが魔法を使ってくれているから、わたしは視界が晴れているけれど……本来なら視界もままならないんだよね。パパが一緒じゃなければこういうところに、わたしは絶対に来れない。そもそもパパが転移で連れて来てくれているから、パパがいないとこんなところにはいないけれど。
「少し見ただけでも見た事がない生き物や植物が沢山あって面白いね!」
「もっと面白いものも見れるぞ」
「本当? どこで見れるの?」
「あっちの山の上だ」
パパが指さした先は、正直言って吹雪で見えないけれど奥に山があるのだろうか? こういう寒い地域の山だともっと寒いのかな? パパと出会ってから、わたしの世界は本当にどんどん広がっているなぁとそんな気持ちになる。
パパに抱きかかえられたまま、移動する。パパはわたしに景色を楽しませようとしているのか、短い区間の転移を連続して使用しながら山へと向かう。
「あれ? パパ、あの人、血だらけだよ!」
そうしている中で、わたしは血だらけの倒れている人を見かけた。
パパは少しだけ面倒そうな顔をした。パパ、多分、わたしが居なきゃ、こういう人もスルーしたんだろうなと思う。
でも今はわたしが一緒だから、パパはその人に近づいた。血だらけの男の人は、まだ生きている。近くに斧が落ちていて、それがその人の武器だと分かる。
「パパ、大変!」
「ああ」
パパはわたしの言葉に頷いて、すぐにその身体を回復させる。パパの魔法によりその傷はなおっていく。これも無詠唱で、やっぱり凄い!
「こいつ、街に送っとく。それでいいだろ、ベルレナ」
「うん。ありがとう。パパ」
パパはこの人を助ける必要もない。けれども、わたしが放っておきたくないといったからわざわざ助けてくれた。だからお礼を言う。
そしてパパは彼を街の近くに送り届けた。街の近くならば誰かが見つけてくれるだろうからって。でもパパが送り届ける瞬間に、一瞬、その人の目が開いていたんだよね。後から面倒なことにならなきゃいいけれど……。




