パパとわたしと紅葉めぐり ③
パパとニコラドさんと一緒にお出かけするのも楽しい。パパもニコラドさんも沢山のことを知っていて、その知識を教えてもらえるのも楽しい。
「ベルレナ、楽しそうだな」
「楽しいよ!」
街の中を三人で歩くのは、とても楽しい。
魚が有名な街というのもあって、魚の形の花壇とかがあったりする。魚の形の花壇に色とりどりの花が植えられていたり、結構景観を綺麗にしている街みたい。外から人がやってくる人も多い街だからこそ、綺麗にしているのかもしれない。
「川と海もいきたいなぁ」
「ああ」
「そうだな、行くか」
さてそんな会話をのんびりと交わしていたら鎧を身にまとい、剣などの武器を手にした人たちを見かけた。どこかに戦いにでもいくのだろうか。
時々街に下りた時に、そういう人たちを見かけたことはあったけれどもどういう人たちなのかというのをわたしは知らなかった。
なんだか、そういう人たちが多いけれど、どうしてなのだろうか。
「海の方に魔物が……」
「倒して名をあげなければ」
そう言った声が聞こえてきた。
海に魔物が出ているらしい。基本的に街の近くの魔物に関しては、大体領主の命によって討伐されている。だから街の中で魔物を見ることは基本的にない。
けれどもこうして街の近くで魔物が出てくることはないわけではない。貴族の令嬢として生きていた頃の私はそういうことを考えた事はなかったけれど、倒してくれる人たちがいるからこそ、街の人たちは普通に生活が出来るものなんだよね。
でも魔物の話をしている人たちは、騎士でもなさそう。
「ベルレナ、あれは冒険者と呼ばれる者たちだ」
「冒険者?」
名前からしてみて、冒険をしていくような人たちなのかな? でも冒険者って単語を聞いただけではどういう存在なのか、いまいちぴんと来ない。
「冒険者というのは、所謂なんでも屋と呼ばれる者たちだ。彼らは護衛をしたり、魔物を倒したり、沢山のことをする」
「へぇー。じゃあ海に出た魔物ってのも、倒してくれるの?」
「そうだな。恐らくどこかから依頼でも出ているんだろう」
「そうなんだ。そうやって危険な魔物を倒してくれる人がいるから安心して皆暮らしていけるんだね。凄いね!」
パパの言葉にわたしはそう告げる。
冒険者と呼ばれる人たちや、騎士たち、色んな人たちが魔物や夜盗などの危険な存在をどうにかしてくれているからこそ、ベルラだった頃のわたしは安心して過ごすことが出来たんだよね。
そう考えると、そうやって戦ってくれる人たちってすごいなと思った。
「俺とディオノレがいればどんな魔物もすぐ倒せるけどな! でも冒険者たちの仕事をとるわけにもいかないから、海に行くのは冒険者が魔物を倒してからにしよう」
ニコラドさんもそう言ってくれたので、わたしはそれに頷いた。
どんな仕事にも役割というものがあり、その仕事をしている人たちの仕事を奪ってしまったら駄目なんだなって思った。その仕事を手伝ってあげたいとか思うのは自由だろうし、それで手伝ったりするのは善意の気持ちなのかもしれないけれど、下手に口出ししたらその人たちの仕事がなくなってしまったり色々あるのかもしれない。
なにかをしたいって思った時には、ちゃんとそれをした結果どうなるかって細部まで考えた方がいいのだろう。
そういうわけで海に行くのは魔物退治が終わってからと決まった。それまでの間、近場の赤く色づいた紅葉をみたりした。綺麗に整えられた公園や近くの山の紅葉はとても綺麗だった。
パパとニコラドさんと一緒にこうして綺麗な景色を見られてわたしの頬は緩んでしまう。
そうやって楽しく過ごしていたのだけど、街に戻った時に街が騒がしかった。
街に飛び込んできた鎧を着た人たちが、怪我をしていた。息切れをして、青ざめた顔だった。
回復魔法を使える人がいたから、怪我はすぐに治癒されたみたいだけど……こういう緊迫した雰囲気をわたしは知らないから、ちょっと怖くなってしまった。思わずパパの服の裾を握れば、パパに頭を撫でられる。
いつも通りのパパを見ると、パパがいればどんな脅威があっても問題ないって安心した。
バタバタと騒がしい声を聞いていたら、どうして怪我をしているかなどが分かった。
海の浅瀬に現れた魔物が強大な力を持ち、討伐しに向かった冒険者では倒せなかったらしい。幸いにも陸地に上がることは出来ない魔物のようだが、このままでは船を出すことが出来ないとそういう話をしている。
この街は、海や川に纏わる場所で働く人たちが多くて、このままでは死活問題だと言う話なのだ。
わたしはパパとニコラドさんと一旦宿へと戻った。
「ねぇ、パパ、冒険者さんたちでもどうにもできなかったなら、倒しちゃった方がいいんじゃないかなぁ」
冒険者の人たちは怪我をしていて、何度も戦いに行ったら死んでしまう可能性もある。そう思うと、怖くなった。わたしがそう言ったら、パパは「まぁ、そうだな」と言って頷いてくれた。
パパとニコラドさんと一緒に夜中の、誰もいない時間帯に海に行ったらその該当の魔物がいた。その魔物は巨大な魚だった。それにその身体から無数の触手が伸びていて、何だかぞわぞわする見た目だった。
水を操れる魔物みたいで、結構強そうだ。
だけど、パパが魔法を使ったら一撃で倒せた。その雷の魔法は、その場を揺らした。凄い威力だったけれど、パパが放った魔法だからわたしは怖くなかった。
「パパ、凄い!」
寧ろパパの活躍を見てわたしはキラキラした目をパパに向けてしまった。
翌日、例の魔物がいなくなったと街中は騒がしかったが、パパたちは倒したことを名乗り出たりはしなかった。名乗り出たら報酬は出るだろうが、名乗り出た方が色々面倒らしい。




