わたしとバザー ④
わたしはその人たちを見て、にっこりと笑いかける。多分、この人はわたしに何か悪いことをしてこようとしているように見える。わたしの姿に罪悪感でも感じてすぐにやめてくれればいいのだけど……、どうやらこの人たちはわたしの姿を見て侮っているような悪い人のようだ。
「何か用ですか。お兄さん」
「俺たちにもめぐんでくれよ」
「無理ですねー」
とりあえずなるべく穏便に済むならば、済ませた方がいいからね。わたしが笑顔で断ったら一瞬、男の人たちは怯んだ。けれどそこで諦めるような人なら、そもそもわたしに話しかけてこようとしないだろう。
ちなみに周りの人たちはわたしのことを心配そうに見ている。けれど割って入らないのは、この目の前にいる人たちのことを恐れているからと言えるのだろうか。これだけ恐ろしい見た目をしている男たち相手だとそうやって恐れるのも当然だよね。わたしは周りの人たち薄情だとは思わなかった。
わたしだって自分の身が可愛くて、こういう時に割って入れないことは当然あるだろう。それに周りの人たちは怯えていて割って入れなくても、証言ぐらいはしてくれるだろう。ここでわたしを庇って誰かが怪我をする方がわたしは嫌だから。
「お前、生意気だな」
「そのお金を俺たちによこせっていってんだよ」
「嫌ですってば」
折角自分で稼いだお金だし、こういう人にお金を奪われるなんて嫌だと思った。わたしが何の力もない少女なら、このまま渡して終わりだろう。そして周りに慰められ、憲兵たちに運がよければ彼らが捕まるとか、そんな感じだろう。
でもわたしはパパから魔法を習っている。自分よりも身体が大きい男の人たちのことは怖いという気持ちもあるけれども、わたしはパパから色んなことを習っているから恐ろしさは少ない。もちろん、何かあったら困るから警戒を怠ってはいないけれども。
男がわたしに手を伸ばす。けれどそれに捕まってあげるようなわたしではない。わたしは避けて、魔法を行使する。
「ベルレナが命ずる。風の神の加護を持って、風を起こせ」
ただ風を起こすだけの魔法をまず行使する。パパはこういう詠唱なんていらないけれど、わたしは詠唱をしなければこういう簡単なものも出来ない。
やっぱりパパは凄いなと思う。
まずは風で彼らを転ばせた。あとはどうしよう? 魔法を使えばどうにでも出来るだろうけれど、手加減をするのが難しい。魔法の手加減を間違えて死んでしまったら嫌だし。うーん、とりあえず囲う?
「ベルレナが命ずる。無属性の壁を生み出せ《ウォール》」
無属性は、祈る神はない。他の属性はその属性の神に祈るけれど、そういうのがないんだよね。魔力さえあれば使えるのが無属性の魔法だから。
そしてわたしは四つの魔力の壁を生み出し、彼らを囲んだ。立ち上がった彼らはその壁から抜け出せなくて慌てている。悪態をついているけれど、わたしに手出しは出来ないし、問題はない。
でもわたし、ずっと魔法を使い続けるのもまだまだ出来ないから早く対応しないと。
「ねぇ、憲兵さんたち呼んできてもらっていい?」
「う、うん。ベルレナちゃんは凄いね」
周りでぽかんとした顔をしていた人たちに声をかけて、人を呼んでもらう。でもその必要はなかったかも。そうしているうちにパパが戻ってきていたから。
「ベルレナ、ちゃんと対応できてたな」
「パパ、見てた?」
「ああ。途中で戻って来てた。ベルレナの教育にいいかなと」
「ああいう人もこれから関わることあるかもしれないもんね。パパ、わたしの対応どうだった?」
パパはわたしを甘やかすだけ甘やかすような人ではない。甘やかす時は甘やかして、だけどちゃんとわたしのことを成長させようとしてくれている。そういうパパがわたしは大好きだと思う。
パパはわたしが危険な目に遭ったり、わたしが対応できないと思ったら飛び出してくれただろうし。
「ちゃんと出来ていたと思う。ただ一つ言うなら一つの魔法で行動不能に出来たらよかったな」
「なるほど。確かにそうかも。パパみたいに魔法をどんどん使えるならともかく、そんなに使えないもんね。わたし」
わたしはパパのように簡単に魔法を使えないから、一つの魔法でどうにか出来た方がきっといいよね。わたしはパパの言葉にその通りだと思いながら頷いた。
そうしているうちにわたしの魔法は解除されて、自由になった男たちが動き出したけれどパパが軽く拘束していた。うーん、やっぱりパパは凄い。周りがざわめいているのは、パパのように簡単に魔法を使える人がやっぱり珍しいのだと思う。
パパの力って実際はもっとすごいのだけど、そういう凄さを見せつけたら皆怯えるのだろうか? 今もパパのことを怯えた目で見ている人もいるから、わたしは何とも言えない気持ちになる。
わたしもいつかそういう力を手にしたら、もっと魔法が得意になったらそういう目を向けられる可能性もあるんだろうなぁと思った。
そうやってわたしとパパが穏やかに会話を交わしていたら、憲兵たちがやってきた。その人たちに悪い顔をした人たちを引き渡した。その後はお客さんがさっきよりも沢山来た。
わたしの魔法が凄いって、そう言ってくれて嬉しかった。わたしのことを怯えた人とかもいたけれど、まぁ、そういう人は仕方ないよね。
そういうわけであっと言う間にバザーで準備した商品も売れてしまった。予定ではもう少し時間かかると思っていたのだけど、売れたのは良いことだからいいけれど。
売り切れたので、わたしとパパは店を畳んで他のお店を見て回ることにした。




