幕間 魔導師のパパ ③
9/26 二話目
「ん……パパ、だい、すき」
俺の隣で眠っているベルレナが、どんな夢を見ているのかそんなことを口にしている。
俺はその寝言を聞いて、思わずその髪を撫でた。錬金術で作成したものを使っているのもあって、その髪は以前よりさらさらになっているように感じられる。
ベルレナが俺の娘になって一年半ほどが経過している。すっかり俺はベルレナがいない日々など想像が出来なくなっていた。
知り合いの異種族達の元へ連れて行けば、ベルレナは目を輝かせていた。元々のベルレナの中身は貴族だったからこそ、ああいう人前にあまり出てこない種族と関わることはなかったからと言えるだろう。
目をキラキラさせていたベルレナは親の欲目をなしにしても可愛いものだと言えるだろう。
錬金術について教えれば、俺を綺麗にするなんて言い出して美容品作りに勤しんでいる。そのことをニコラドに手紙で言えば、「女の子だな。されるがままのディオノレを想像するだけで面白い」なんてかえってきた。
……俺も相手ベルレナじゃなければ、そんなのつけられるのを嫌がっただろう。
「パパ……? あれ、わたし、寝てた?」
頭を撫でていれば、ベルレナが目を覚ました。
寝ぼけたようにこちらを見るベルレナに思わず笑みをこぼしてしまう。
「ベルレナ、涎垂れてる」
「え、本当?」
そう言いながらベルレナはその涎をふいていた。そして洗面所へと向かう。ベルレナは女の子なので、身だしなみを気を付けている。何もしなくても可愛いからそのままでいいと思うんだがな。
「ねぇねぇ、パパ、次はいつ、魔物を倒すの連れていってくれる?」
「この前行ったばかりだけど、もう行きたいのか?」
今までベルレナを街に連れて行ったり、異種族の所に連れて行ったり色々していたけれど、ベルレナ自身に魔物を倒すのをさせたのはこの前が初めてだった。
初めての魔物退治を行った時、ベルレナの手は震えていたけれど最後までやりきっていた。ベルレナは見た目は俺が作ったホムンクルスで、か弱そうに見える。だけれども、ベルレナの魂は出会った頃から変わらない意志の強さが見られて、精神的な強さがあるのだと思う。
解体だってちゃんとやり切っていたしな。
「うん。わたしね、パパの言っていた通り魔物退治も出来るようになった方がいいと思うんだよね。わたしね、パパの娘でしょ。魔導師であるパパの娘として、恥ずかしくないようにしたいもん! わたしが魔物をぱぱって倒せたらわたしのことを流石パパの娘だって皆に認めてもらえそうだもん」
ベルレナが何だかかわいらしいことを言っていた。
というか、ベルレナのことを俺の娘だと認めないとかふざけたこと言うやついたらまず黙らせるけどな。
「ベルレナは誰が何と言おうと俺の娘だろう。そんな風に気を張りすぎることはしなくていいぞ。つらいならそんなに頑張ることもしなくてもいいんだぞ」
ベルレナがやりたいことをやるのは問題はない。だけれど、俺の娘だからってそれをプレッシャーに感じているのは嫌だなとは思う。
だけどベルレナは笑って言う。
「わたしがやりたいからやるの! わたしがどんなわたしでもパパは受け入れてくれるって分かっているよ。でもわたしはただそれだと嫌だもん。だからパパから沢山教えてもらって、もっとパパの娘だって認めてもらっていきたいから!」
やっぱりベルレナはいつでも真っ直ぐだ。
これだけ真っ直ぐで素直で、一生懸命なベルレナだからこそ俺は娘として可愛がれるんだろうなと思った。
というか、俺のためにも魔物退治も解体も今よりも出来るようになっていきたいとそんな風に言うベルレナに嬉しいと思って仕方がない。
やっぱりいつかベルレナが俺の手から離れていくことは……考えたくない。
ただベルレナが学園に通うようになったら、ベルレナと今のように毎日過ごすことが出来なくなるだろう。外の世界を知って、ニコラドがいうような反抗期になったら……考えるのはやめておこう。
とりあえずベルレナが学園に行く時は毎週帰って来れるように魔法具を渡しておこう。あとは通信できる魔法具とかも準備しておこう。
ベルレナは元々のベルレナの身体を使っている者たちも通う学園に興味を抱いている。学園に通ったら同年代の子供達と一緒に過ごすことになるわけで、ベルレナに近づくものは多くなるだろうな。
……もっとベルレナに注意しておくか。変な輩もいるかもしれないし。
「ベルレナ、じゃあ明日また魔物倒しにつれて行ってやるよ」
頭を撫でながらそう告げれば、ベルレナは満面の笑みを浮かべた。
「本当? ありがとう! 今度の魔物退治ではもっと上手に倒せるように頑張る」
やる気満々のベルレナを見ながら、俺も笑った。
ベルレナがこれからどんな人生を歩んでいくのか、まだ分からない。でもその時にやりたいことが出来るように色んなことを教えていきたいと思った。




