ニコラドさんがやってきた ②
「ニコラドさん、今日はどうしたの?」
わたしはニコラドさんに近づいて、そう問いかける。
ニコラドさんはパパとわたしに会いに時々屋敷にきてくれる。ニコラドさんは優しいお兄さんみたいで、わたしはニコラドさんがやってくると嬉しくなって笑ってしまう。
「ベルレナ、元気にしてたか?」
「うん。わたし、元気だよ」
「そうか」
そう言いながらニカッとニコラドさんは笑う。
ニコラドさんの豪快な笑みが好きだなぁと思った。
その後、パパとニコラドさんが椅子に腰かけて話し始めたので、わたしは果実のジュースを準備して、パパとニコラドさんの目の前に置く。
わたしも一緒に話を聞いていていいかな? 大人のお話をしているならば、ちょっと違う所にいた方がいいかな? などと思いながらチラチラとパパとニコラドさんを見ていたら、パパに「ベルレナもこっち来て座れ」と言ってもらえたので椅子に腰かける。
「ベルレナは、学園にかようかもしれないんだろ? だから学園の資料とか色々持ってきた! ちなみに俺の弟子が学園長やっている学園だと色々融通がきくぞ」
「へぇ、ニコラドさんのお弟子さんが学園長やっているの? 凄い!」
「……ベルレナ、ただその学園だとベルレナの前の身体もいるからな?」
「え? そうなの? 凄い、偶然!!」
ニコラドさんのお弟子さんが学園長をやっている学園は、わたしの身体を使っているあの子が通う学園らしい。あの学園に通うことになるのならば、昔のわたしの身体を見かけることもあれば、わたしのベルラだった頃の知り合いとも会うことになるだろう。
パパはそのことを考えて、わたしが傷つくのではないかと思って先に教えてくれているのだと思う。
だけど、正直わたしにとって昔の身体は過去のことである。
「パパ、わたしね、今、あの子や昔の知り合いにあっても普通に接する事が出来ると思うよ。今のわたしはベルレナで、パパの娘だもん。それ以外のなんでもない。でもわたし、色んな学園の情報を見てから、本当に何処に通いたいのか考えたいなって思うの。だから学園に通う時期までどこがいいか考えたいなって!」
わたしはパパの娘。
――わたしは例え、あの子と話すことになったとしても、昔の知り合いたちと会うことになったとしてもわたしはわたしのままだ。
過去は消えないし、わたしが昔、ベルラ・クイシュインであった事実は変わらない。それでもわたしはわたしだから。
「そうか。なら、どこでも好きなところを選べばいい。でも週末には帰って来いよ」
「え? 週末ごとに? わたし、転移とか使えないよ?」
「ベルレナは転移を使えなくてもいい。俺が転移で帰って来られるように迎えに行くか、魔法具の準備をする」
どうやらパパはわたしが週末にすぐに帰ってこられるように、準備をしてくれるらしい。パパは過保護だなぁと思うけれど、わたしもパパと毎日過ごしているとパパから離れたくないって思うから、その申し出は嬉しい。
「はははっ、お前過保護すぎね? そんなに娘にべったりしているとか、そのうちベルレナに気持ち悪がられるって絶対!!」
「ニコラドさん!! わたしはパパにそんな態度しないよ! わたし、パパ大好きだもん!!」
「ベルレナも本当にディオノレが好きだなぁ。ディオノレに恋人でも出来たらどうすんだ?」
「え? 普通に祝福するよ! パパは人にあんまり興味がなくて、恋なんて全然しなさそうじゃん! そんなパパが恋人を作るってだけでもきっと凄いことだよ! そうなったら全力で応援するよ!!」
そう言ったらニコラドさんに思いっきり爆笑された。
どこに爆笑する要素があったのだろうか? でもパパが誰かと恋をして、誰かと恋人になるってあんまり想像がつかない。だってパパは優しいけれど人への関心が少なかったりするから。
でもパパに恋人が出来たら素敵だろうなぁ。そりゃあ変な人だったら私は困っちゃうけれど、パパが選ぶ人ならきっと素敵な人だもん。
「ははは、良い娘だなぁ。ベルレナは。ディオノレはベルレナに恋人でも出来たらどうするんだ?」
そう言いながらニコラドさんは、パパに笑いかける。
パパの方を見たら難しい顔をしていた。何とも言えない表情をしていたパパは、「……見定めて祝福する」とぶっきらぼうにいった。
「なんだかその見定めがやばそうだよなぁ。ディオノレの基準だと、どんな男でも大変だろう。ベルレナも大変だなぁ」
「大変じゃないよ。パパはわたしのためを思って言ってくれているだろうから。わたしもパパと仲良くできる人と恋人になるならなりたいなぁって思うよ。でもわたし、恋なんてしたことないから、わかんないけどね」
わたしに恋人が出来たらパパは見定めてくれるらしい。まだわたしは子供で、恋なんて知らない。でもいつかもっと大きくなって好きな人が出来たらパパに会わせたいって思った。




