ニコラドさんがやってきた ①
「パパ、手紙書いた」
「おう、じゃあ送る」
「あと、パパにも書いたよ!」
「俺にも?」
「うん。パパも返事頂戴ね!!」
わたしはお手紙を沢山書いている。出会った人たちに向けた手紙。それを書くのは楽しい。文字の練習にもなるし、書きたいことは沢山あった。
わたしのこの屋敷での暮らしは、周りに全て話せるわけではないけれども、それでもパパとの暮らしを誰かに手紙で伝えられるのは嬉しかった。
ついでに同じ屋敷の中にいるけれども、パパにも手紙を書いた。パパに手紙を書いたら楽しいかなって思ったから。
友達からもらった手紙は全部しまってある。ちなみにその入れ物はパパと一緒に木で作った。魔法を使って簡単に作る事も出来るけれど、一つ一つパパと手で作った。何でも魔法を使って、魔法ばかりに頼らない方がいいってパパが言っていた。
パパは長い間生きている間で、命の危機を感じた時もあるらしい。そういう時に、魔法以外にも色んな事が出来ればきっとこれからのためになるって言ってくれている。
こういう沢山のことを学ぶことが出来る今がとても楽しい。パパはわたしが我儘をいえば、それを結構聞いてくれる。だけれども甘やかすだけではなく、パパはわたしに沢山のことを教えてくれている。
わたしはこの場所で、ベルレナとして生きるようになって自分で出来ることが沢山増えてきた。一つ一つ出来ることが増えてくると、何だか嬉しい気持ちになってくる。もっともっと出来ることを沢山増やしていきたいと、そう思っている。
パパのことが大好きだから、パパのために何かしてあげたいなって思いも沢山あって、わたしはパパに「何かしてほしいことがある?」って聞いたことがある。でもパパは「俺のためじゃなくて、自分のやりたいことをやれ」とそう言ってくれる。
わたしは屋敷の書庫へとやってきた。
書庫には沢山の本が並んでいて、やっぱり楽しい気持ちになる。わたしは屋敷の外にも結構連れて行ってもらっているし、お友達も結構出来ている。それに魔法を習うのも好きで、パパと一緒にだけど屋敷の周りを散歩したりもよくしている。
外で遊ぶのも好きだけれど、やっぱり書庫に来るのも好きだ。
パパの集めたものだって思うだけでも何だか楽しいし、気になった本を読んでパパに質問をしたり、その本を手にした時の話を聞いたりするのも楽しい。
書庫の中でわたしは並んでいる本を見る。
買ってもらった本を読むのも楽しいけれど、パパの本の中から面白そうなものを探すのも好きだ。
何の本を読もうかなと視線をさ迷わせて、面白そうな本を見つける。
それは海に関する本だった。わたしは海には魚人たちの国に行った時しか行ったことがない。一度だけ行っただけでは、海についてすべて分かるわけではない。海は私の知らない姿を沢山持っているだろう。それこそ海だけではなく、遊びに行った街だって違う時にいったらまた違う姿を見せてくれるだろう。
海の魔物の図鑑。
この住んでいる屋敷ぐらい大きいのではないかと思うような巨大な魔物が海には存在しているみたい。こういう魔物は食材にもなれば、錬金術の材料にもなる。錬金術についても少しずつパパに習っているけれどやっぱり難しい。簡単なものだとどの材料を使えばいいかとか覚えられたけれど、錬金術は錬金術師の数だけ多様多種なレシピがあって中々覚えるのも難しい。というか、パパは魔法や錬金術に関しては記憶しているんだよね。
人の顔とか、そういうの覚えるの苦手だって話なのに。
わたしは魔物を自分の手で倒したことはない。全部パパが倒してくれていたから。けれどわたしが錬金術をもっと学びたい、自分で材料を手に入れたいってなると魔物退治も出来るようになっていかなければならないって思う。もちろん、一人で魔物を倒しにはいかない。初めて魔物を倒すとしたらパパが隣にいる時になると思う。
魔物の本を読むと、魔物って怖い存在だなって改めて思う。
海の魔物は、船に乗っていた漁師さんに襲い掛かったりすることも多いみたい。クラーケンっていうイカの姿の大きな魔物なんて災害級と言われているんだって。大きくて、船を沈没させたりといった恐ろしいことがあるかもしれないって書いてあった。それを見ると、わたしがクラーケンに遭遇したらどうするだろうかと考えてみる。クラーケンは、足がいくつもあるけれど、どこからつぶすべきなのだろうか。大きな魔物だと回復能力も高いのだろうか? それともやっぱり目とかを狙った方がいいんだろうか。
というか、海の中で戦うとしたら普通なら勝てないよね。魔法が使えない人だと、どうしようもないのだろうか。そう考えると海を移動することって大変だ。……本当にどうやってるんだろう? 漁師の人たちに話を聞いてみたいなぁ。というより、色んな職業の人から話を聞いてみたいってそういう気持ちになってくる。
そういう職業の人だからこそ知っている知識が沢山あるんだろう。パパみたいに魔法を職業にしている人だと、魔法の知識が凄い。だけど他のことが得意な人だと、他のパパが知らないような知識を沢山持っていたりするだろうし。
ベルラだった頃は、わたしはそういう知識欲なんてなかったけれど、お父様とお母様に沢山貴族についても聞いていたら良かったなぁって思う。まぁ、そのころのわたしはそういうことに興味はなかったのだけど。
そんなことを考えていたら、パパに声をかけられる。
「ベルレナ」
「ん? パパ、どうしたの?」
「ニコラドが来た」
わたしはパパのそんな言葉を聞いて、書庫から出た。




