わたしは友人を増やしていく ⑥
「そろそろ、屋敷に戻るか?」
「……うん」
しばらくその街で過ごしていたけれど、ずっとその場所に居続けることはない。あくまでわたしたちの家は、あの屋敷だから。
そもそもパパは魔導師という立場で、魔導師は年をとらないものだという。だからこそ、人が多くいる場所で、パパは長くとどまることはしないらしい。魔導師という存在は、珍しい存在で、恐れられることもあるとパパはそんな風にも言っていた。
折角出来たお友だちたちとは、しばらくのお別れだ。
「またベルレナが会いに来たいなら、幾らでも連れてくるからな」
「うん! わたしも転移が出来るようになりたいな」
「転移の魔法は難しいからな。ベルレナが出来るようになるのは、ずっと先だろうな。転移に関しては失敗すると身体が分断されたりするから」
「うっ、こわい!」
パパは簡単に転移魔法を使っているけれど、やっぱり難しいみたい。さらっと難しいことを簡単に行っているけれど実際はそんなに簡単に出来ることではないみたい。
それにしてもパパがさらっとやっていることが常識だと思っていたら、いずれ人が沢山いるところにいったりしたら常識の違いにショックを受けるかもしれない。パパだと常識的なこと分からないかもしれないから、ニコラドさんに訊いてみようかな。
もうすぐこの街を離れるということで、仲良くなったお友達たちにしばらくのお別れを言いに行った。帰ることを伝えたら「もっと此処にいなよ」とそういうことを言われた。あとはわたしの家に遊びにきたいという言葉もかけられた。
けれどそれは「ごめんね。また遊びに来るから」とそう言っておいた。流石に山の上の、誰も周りにいない屋敷に案内するのは案内しにくい。……いつか、わたしとパパの家に誰かを招待したり、わたしの身体がホムンクルスだっていうのを誰かに伝えられることがあるのだろうか。
先のことは何も分からないけれど、そういう人に出会えたらわたしは嬉しいなと思う。
街を去る前に聖なる獣――ラドガーデさんに会いにいった。ラドガーデさんは、わたしとパパが街を去るということを知って、「そうか……」とだけ口にしていた。
「――また来るがいい」
「うん。また来るよ」
わたしはラドガーデさんがわたしたちにまた来てほしいといってくれたことが嬉しかった。わたしがラドガーデさんのことを大好きだって言うだけではなく、ラドガーデさんもわたしにまた会いたいって思ってくれるのが何だか嬉しかったのだ。
――街を去る前に街の人がお別れ会のようなものをやってくれた。また会おうねってそういう気持ちを込めて料理を作ってくれて、プレゼントをくれたりもする。
「ふふ、楽しいなぁ」
「良かったな」
パパがわたしの言葉に、笑っている。
パパが笑っているだけで何だか嬉しくて、にこにこしてしまう。パパもわたしが仲良くなったお友達の両親たちと別れの言葉を口にしていた。
パパにもお友達が出来たんだと思うと、やっぱりなんだか嬉しい。
「パパもお友達が出来て良かったね! わたし、パパにお友達が出来たのが嬉しい!」
「よかったな」
「パパ、またこの街に友達に会いにこようね」
「ああ」
パパはわたしの言葉にそっけない返事で頷く。
でもわたし、パパがお友達からプレゼントをもらって嬉しそうにしているの知っているよ。パパはもらったものを大切に屋敷にしまうことにしたみたいだし。素直じゃないなぁって思う。でもそういうちょっと素直じゃないところもパパらしいなぁってわたしは好きだなって思う。
「ただいま」
そう口にして屋敷の中へと帰ってきた。
やっぱり外に出るのも楽しいし、街にしばらく滞在してお友達を沢山作るのも楽しいけれど、やっぱりわたしは屋敷にいるのが一番ほっとする。
すっかりこの屋敷はわたしにとって帰る場所で、わたしにとって一番安心できる家なのだとそう思った。
お友達たちには時折手紙のやりとりをすることを約束している。パパが魔法を使って手紙を届けて、回収するようにしているのだ。パパが「この場所に置けば届くようにする」みたいにいって箱状の何かを渡していたしね。
それにしてもパパのおかげでお友達にも手紙を簡単に渡せるって思うとやっぱりいいよね。
お友達の名前は、パパに買ってもらったノートに沢山のお友達の名前を並べる。何だかそれだけでも嬉しいなぁってにこにこしてしまう。
「パパ、また街に出かけようね」
「ああ」
わたしの言葉に、パパはそう言って笑ってくれた。




