わたしは友人を増やしていく ④
わたしはドキドキしながらもパパに抱えられたまま、その不思議な気配のするという聖なる獣の元へと向かう。
わたしはその気配というのは分からない。パパだから分かるものなのだろうかと思うと、やっぱりパパは凄いという気持ちでいっぱいになる。
近づけばその聖なる獣の姿が見えた。
「……何か用か」
その聞きなれない声にわたしは思わずびくっと身体を震わせてしまう。聖なる獣って喋れるのとびっくりした。
パパの腕の中でびくついたわたしを、パパが優しく撫でる。
「お休みの所失礼、聖なる獣よ。俺の娘が貴方に会ってみたいと言ったから連れてきた」
パパの冷静で、優しい声。
パパはその聖なる獣を前にしても、いつも通りの様子で、それにわたしは安心する。
「娘か」
視線がわたしに向いたのが分かった。わたしは恐る恐るそちらを見る。そこにいたのは真っ白な毛並みの、大きな獣。獅子の姿をしたその存在は、なんともかっこいい。その鬣も、鋭い牙も、何だかかっこいい! としか言えない。
この雪の積もった山頂に存在するその獣は――どうしようもないほど美しく思えた。
その大きな力を持つ姿に恐怖心を覚えないのは、その存在がわたしに敵意を向けていないからだろう。あとはパパが傍にいてくれるから。わたしにとってパパがいてくれるだけでどこでも安心できる場所だから。
パパが隣にいれば、わたしは何だって出来る気がする。
「は、はじめまして。聖なる獣さん! わたし、ベルレナっていうの。貴方のことを噂で聞いてみてみたいなぁって。突然、お邪魔してごめんなさい!」
パパの腕に抱えられたまま、わたしは聖なる獣さんにそういって声をかけた。その聖なる獣さんは、その黄色い瞳をわたしのほうに向ける。その目は何処か優しいように見えた。
「そうか。我はラドガーデ」
「らどがーで? お名前かっこいい!」
聖なる獣さんに似合うとても素敵な名前だと思った。
それにしてもこういう聖なる存在って、こんな風に話せるのが当たり前なのかな。やっぱり特別な存在だから? それにしてもとても触り心地がよさそうな毛並だと思う。
「……して、お前は魔導師か。この娘はホムンクルスか?」
「ああ。俺は魔導師ディオノレ。この子は身体は俺の作ったホムンクルスで、中身は拾った魂だ」
「彷徨っている魂をホムンクルスに入れたのか。なんとも無茶をしたものだ。拒絶されれば身体も魂も無事ではなかっただろう」
「まぁ、そういう可能性はあったかもしれないけれど、結果としてベルレナは無事だったからいいだろう」
「……それに、その娘の魂、何かの力の痕跡があるぞ」
ラドガーデさんにそんなことを言われた。
力の痕跡などと言われて、わたしは何のことだろうと首をかしげてしまう。
「ベルレナに力の痕跡か。俺は何もしていないから、ベルレナがベルレナになる前か。何か心当たりあるか?」
「んー、わかんない」
わたしがそう言えば、「そうか」と言いながらパパが頭を撫でる。
正直ラドガーデさんが言っている意味は分からないけれど、それが何だったとしてもいいかなぁと思う。それが例えば何だったとしても、パパがいてくれればきっと何も問題がないのだから。
こう考えるとわたしってパパが絶対にわたしの味方だって、甘えちゃっている気がする。もっと大きくなったら、パパ離れしなきゃなのかな。……正直自分でそんなわたしが想像がつかない。
「パパ、降ろしてもらっていい?」
「ああ」
わたしは一旦、考えることをやめてパパから降ろしてもらう。
そしてわたしはラドガーデさんに近づいた。
「ラドガーデさんは、ずっとここにいるの?」
「そうだな」
「街の人たちから聖なる獣って呼ばれてるのは何でなの?」
そう問いかけたらラドガーデさんは「知らん」などといった。呼び名なんて本人が知らない所で周りからつけられたりしているものだろうから、知らないものなのかもしれない。
それにしてもラドガーデさんの毛、触ってみたいけど、触っては駄目かな? 初対面でいきなり触られたら普通に考えたら嫌だよね……なんて思うとそわそわしながらもその毛並みに触れられない。
「ラドガーデさんは――」
問いかけながらもわたしはちらちらとそのラドガーデさんの真っ白な毛を見てしまう。
「……触りたいなら触ってもいい」
「本当!? ありがとう!!」
わたしはラドガーデさんの言葉に嬉しくなって、その毛に恐る恐る触れた。
「ラドガーデさん、痛かったらいってね?」
「その小さな手で触られていたいも何もない」
ラドガーデさんにそう言われて、わたしはその身体に触れる。なんて気持ちが良いのだろうか。
思わず頬が緩む。
「ねぇ、パパ、とってもふかふか!! パパも触ってみて! ラドガーデさん、いい?」
「構わない」
ラドガーデさんがパパが触るのもいいよって言ってくれたから、パパの手を取って、そのふかふかの毛に触れらせる。
その後、わたしはしばらくラドガーデさんに話しかけた。
そうやって楽しい時間を過ごしていれば、あっと言う間に時間が過ぎていく。
「ベルレナ、帰るぞ」
「うん……。ねぇ、ラドガーデさん、また来てもいい?」
「構わない」
「ありがとう!!」
ラドガーデさんがまた来てもいいよって言ってくれたのがわたしは嬉しくて、思わず笑った。




