幕間 身体を奪ったあの子 ⑤
ガトッシ殿下とは、順調に仲良くなれている。
私はその事実にほっとした。貴族の世界だと政略結婚も多いけれども、私は結婚するなら結婚相手と幸せに過ごしたいもの。それに大好きな人から嫌われるなんて悲しいもの。
私は相変わらず、魔法の才能はそこまでない。ゲームのベルラ・クイシュインのように火魔法を使えるわけではない。ゲームとのずれを確かに私は感じている。
それでもフラグを少しずつ折っていけている。悪役令嬢のベルラ・クイシュインが周りに好かれるように、嫌われないように――そういう嫌われる要素を少しずつ折っていった。私の努力が実っているのか、少しずつ周りとの関係も良好になれた。
それが私には嬉しくなった。
だけれどもヒロインが現れて、もしガトッシ殿下たちがヒロインに惹かれてしまったらどうしようか。
私はガトッシ殿下に心惹かれているから、ガトッシ殿下がヒロインに惹かれてしまったらどんな行動をしてしまうのか想像がつかない。ゲームのベルラのように嫉妬して動いてしまったら……そう考えると不安になった。
「ベルラ、今日も勉強をしているのかい?」
「お兄様!」
将来の事を考えて不安を覚えながらも、私は勉学に励んでいた。私はゲームのベルラのように圧倒的な魔法の才能もなく、過去に倒れてしまった事実もある。だからこそ私はガトッシ殿下の婚約者としてあるために、勉強に励んでいるのだ。
「ベルラは本当に勉強熱心だね」
「ええ。ガトッシ殿下の婚約者として相応しくありたいもの」
「本当にベルラは、ガトッシ殿下のことはが好きだね」
「ええ。ガトッシ殿下のために頑張るの」
――私が頑張ったところで、もしかしたら強制力のようなものがあったらガトッシ殿下はヒロインに心を奪われてしまうのかもしれない。お兄様だって、そうかもしれない。
でも……ヒロインが素晴らしい人で、ヒロインに皆の心が奪われたとしても、頑張ってきた成果というのは残るものだと思っている。
だから攻略対象以外の、乙女ゲームの登場人物たちではない人達のとの関係ももっと深めていきたいと思う。
この世界にやってきて、この世界が乙女ゲームの世界だと知って、乙女ゲームの世界だということばかりを考えてしまっていたけれど、登場しなかった人たちもこの世界には沢山の人たちがいる。
その人たちもちゃんと生きている――ということを私は実感している。
「ねぇ、お兄様は将来、どういった人と結婚したいとかあるの?」
「どういった人と? そうだねぇ。この家を盛り立ててくれるような人と結婚したいかな」
「もー、そうじゃなくて! お兄様の好みの話だよ」
「好みねぇ……そういうのあまり気にしたことないかな」
「私、お兄様の恋バナ知りたいのに……」
ゲームのお兄様はもう少ししたら婚約をする。婚約者になった令嬢と、お兄様はあまり合わなくて、その令嬢が婚約者であることをお兄様は嘆いていたっけ。隣国の令嬢だから、私はまだあった事がないのよね。
ベルラ・クイシュインのように悪役令嬢枠のわけではないけれど、お兄様の婚約者は婚約破棄されるのだ。私は出来ればお兄様には、お兄様に合う人と結婚してほしいと思ってしまう。
だけど貴族として生きていると、利害関係で婚約を結ぶのも当然だというのもわかる。ただそれを実感すると、乙女ゲームの世界だと簡単に婚約破棄していたけれど、そういうのは簡単に行うべきものではない気もする。だからこそ、婚約破棄なんてしないでいられるならそちらの方がいい。
仲良くなれるなら婚約者と仲良くなってほしいし、本当にあわないようなら別の人と婚約をして、そのまま結婚したほうがいいと思う。
そう思うから、同年代の攻略対象と親しくした際は、婚約者の人たちと仲よくしたほうがいいというのは告げている。幸いにも私の言葉を彼らは聞いてくれたから、ヒロインが現れても問題ないと思っている。……けれどどうなるか分からないし、その婚約者の令嬢たちと一緒に仲よくしながら、何かあった時に力を合わせられるようにと動いているのだ。
本当は今のうちからヒロインに出会えて、ヒロインと仲良くなれたらいいのだけど、ヒロインって今の時期は海外にいるし、どこにいるか分からないのよね。
「……ヒロインが現れても、ガトッシ様のことは渡せないわ」
――渡したくない。大好きだから。前世からの推しと私は幸せになりたいから。
だから、ヒロインが現れてもガトッシ様が私と結婚してくれるように、努力を続けるのだ。そうやって努力を続けることで、大変な事や辛いことだってあるけれどそれでも私はガトッシ様のために頑張りたい。
私はそんな気持ちで、勉学に励んだ。




