幕間 悪役令嬢の取り巻きの兄 ②
6/5 本日二話目
ベルラ様をずっと俺たち兄妹は探している。
ベルラ様が消えずに、生きていてくれたこと、存在してくれたこと。それを俺たちは喜び、ベルラ様を探すことばかりをしている。
「ああ、ベルラ様はどこにいらっしゃるのかしら! あの人はベルラ様の代わりに王太子殿下と婚約しているし、本当ならベルラ様の場所だったはずなのになぁ。でもアル兄様が見かけたベルラ様はとても幸せそうだったのよね。それを思うとはやくベルラ様に会って、ベルラ様がどんなふうに過ごしているのか、知りたいですわ!」
「そうだな」
目を瞑れば、あの時見かけた違う姿のベルラ様のことが、目に浮かぶ。
美しい真っ白な髪、黄色のまんまるとした瞳。元々のベルラ様は、目が吊り上がっていて、厳しい印象を見るものに与えたけれど、あの時見かけた新しいベルラ様は顔立ちはかわいらしい、人形のように見えるようなものだった。目元も優し気で……だけれどその魂は確かにベルラ様で、意志の強いその瞳に改めて俺は心惹かれたのだ。
この気持ちがどういうものなのか、俺自身にも分からない。新しいベルラ様に会えたら、俺は自分がベルラ様にどういう感情を抱いているのか分かるだろうか。
俺もネネデリアも、ずっとベルラ様のことばかり考えている。
ベルラ様に会えるようにと剣や魔法の訓練に勤しんでいる。ネネデリアは令嬢なのに、何かあった時のためになどといってそういうことをしているので、両親も兄上も眉をひそめている。とはいえ、末っ子のネネデリアが望んでいるからなんだかんだ許しているようだけど。
あのベルラ様の身体を使っている女は、周りから慕われている。王太子の婚約者になって、幸せそうに過ごしている。その様子を見るのは何とも言えない気持ちになるが、俺とネネデリアが貴族である限りあの女に関わらずに過ごすことは出来ない。でも俺は次男だし、将来的にはあの女に関わらないで生きていけた方が楽かもとは思った。
でもベルラ様に会うためには、権力はあった方がいいかもしれないから悩むけれど。
「アル兄様はベルラ様に会ったら何したい?」
「……何をしたいって、そうだな。見ていたい」
「ふふ、アル兄様、話しかけたいとかじゃないんだ?」
「話してみたいとも思うけれど、それよりも見ていたいって思う」
ただあの綺麗な、強烈な魂を――見ていたい。俺はそれだけを考えている。ただ見ているだけでもきっとベルラ様は綺麗で、心が躍るだろう。
いつもネネデリアとそういう会話ばかり交わしている。
そうやってネネデリアと一緒に過ごす。俺が家族の中で一番仲が良いのはネネデリアと言えるだろう。
「あ」
俺はその日、ある骨董品市場に来ていた。
なんでこんな所に来ているかといえば、魔法に関する面白い物がないかと、俺は探しに来るのだ。従者を二名だけつけて見て回っている。
その中で一つの絵を見かけた。
――そこにいたのは、あの時見かけたベルラ様と、その父親らしきそっくりな男性の絵だった。
外国の画家が描いた絵らしい。
その絵に描かれているベルラ様。それに俺は目が惹かれた。
外国の画家が描いたものなので、描いた者に取り次ぐことも出来ないらしい。他にもその絵を買おうとしていた者がいたけれど、そこは貴族としての財力で購入した。
従者は俺が絵なんて買ったことに驚いていた。
自分用のお金をとっておいてよかったと過去の自分に感謝した。
その絵を持ち帰れば、ネネデリアが「アル兄様、絵なんて買ったの?」と不思議そうな顔をされたので、「これは新しいベルラ様だ」と告げる。
「はぁ、ベルラ様の新しい姿、なんてかわいらしいの。今までのベルラ様とはまた違いますわね。真っ白な髪と、黄色い瞳のベルラ様も素敵……! それにこの男性とはどういう関係なのかしら。でもなんだかこの絵のベルラ様、とてもこの男性の方を信頼しているように見えますわ。もちろん、絵だから本当の事かは分からないですけど……でもベルラ様の絵を手に入れるなんて……アル兄様、流石ですわ!」
「ちょっと待て。そのまま自分の部屋に持ち帰ろうとするな。それは俺が買ったものだからな??」
しばらく俺とネネデリアは、ベルラ様の絵を眺めながらああだこうだ話していたわけだが、その後、ネネデリアがその絵を自室に持ち帰ろうとしていた。
俺が買った絵なのに。
「……でもベルラ様を部屋に置いておきたいんですよ!」
「その気持ちはわかるけれど、これは俺が買ったものだ」
「アル兄様は本物を一回見てるじゃん……」
ネネデリアは恨みがましいような表情で俺を見る。何だか妹を虐めているような図になってしまっている。
俺は絵を抱えてこちらを見るネネデリアを見て、仕方がないと息を吐く。
「ネネデリア、じゃあ交互にしよう。互いの部屋に交互において、しっかりベルラ様の絵を守るんだぞ」
「ありがとう。アル兄様! もちろん、大切にする! 私とアル兄様にとって家宝みたいなものだもんね。今日は私の部屋でいい?」
「はぁ……いいぞ」
「ありがとう!!」
何だかんだ俺は俺と同じようにベルラ様のことを慕っている同志であるのもあり、大事な妹なのだ。なのでこうやった目で見られると何だかんだ譲歩してしまう。
今日はネネデリアの所にベルラ様の絵が行くが、俺の部屋にベルラ様の絵を置く日を楽しみにしていようと思う。
そして今のベルラ様の情報をもっと探さないと。この画家の場所でも分かればベルラ様に繋がるかもしれないので、探していこうと思う。




