様々な種族の里を巡る ⑥
「エルフの里に行くか」
パパに連れられて、パパの交流のある種族を巡っている。
わたしは沢山の種族たちと出会い、交流を結んだ。ベルレナとしてのわたしの交友関係が、どんどん広まっていって、それがわたしにとっては嬉しかった。
そして最後の最後に向かうことになったのは、エルフの里である。パパがエルフは選民意識が強いって言って、最後と言っていた里である。
「エルフの連中もベルレナが人間だったとしても、俺の子供という立ち位置なら妙な事は言ってこないとは思う。いってきたら俺がどうにかするから」
パパはそんなことをいう。
それにしてもパパはそういう種族の人たちとも仲良くしているってことだろうか。やっぱりパパは凄い人だとそのことを実感する。
パパと一緒にエルフの里へと向かった。
エルフの里は結界のようなものが張られているらしく、一見するとただの森だった。そこに里があるようには思えなかった。だけど、パパが手をかざせば、そこの空間が歪んだ。
パパに手をひかれて、エルフの里へと入る。
何だかいきなり警戒心にみちた目を向けられる。何人かが弓矢を向けてこようとして、周りに止められている。
「なんで、止めるんですか! 人間ですよ!」
「あれは魔導師ディオノレだ! 手を出したらややこしい!」
それにしてもいきなり弓矢を向けてくるなんて恐ろしい人だと思う。
わたしは震えてしまう。パパはわたしの頭を撫でる。
「ベルレナ。俺がいるから大丈夫だ」
そう言ってパパに頭を撫でてもらえると嬉しい気持ちになった。
パパとわたしを警戒している人たちもいるけれど、二人で無事にエルフの里に入る。エルフの里の偉い人っぽい人は、わたしがパパの娘だと知って驚いた顔をしていた。パパが娘を持つというのは、それだけ彼らにとって不思議なことだったらしい。
「魔導師ディオノレは変わったな」
「……俺は何も変わってねーよ」
「そうか……。それで今回はどういった用件だ?」
「俺の娘――ベルレナに色んな種族を見せてやろうと思っただけさ」
「やっぱり貴様は変わっている。昔の貴様なら、娘など作ったところで放っておいただろう」
わたしにとって、パパは優しいパパだ。
わたしは昔のパパを知らない。だけど、昔のパパならこんな風に優しくなかったとそんな風に皆が言う。
わたしにとってパパは優しい人だから、そういう風に言われると不思議な気持ちになる。
「ベルレナ、エルフたちと話すときは俺と一緒の時だけな。あいつら何するか分からないから」
「うん」
他の種族と違ってわたしだけ話に向かったりすると危険かもしれないらしい。でもこういう風に人間の事を忌避しているような種族にも認められているパパってやっぱり凄いと思う。
だって種族が違えば常識も違って、エルフたちの大多数にとっては人間は下に見るべき存在とされているのだろう。そういう種族に認められるだけの力をパパは持ち合わせている。――そう思うとわたしはパパの事が誇らしかった。
パパと一緒にエルフの里をうろうろしていると、急に魔法を向けられたりした。殺傷力はないものみたいだけど、急に魔法を向けてくるなんて恐ろしいなと思った。でもパパがいたから全然怖くなかったけれど。
パパが魔法を簡単にはじいたのを見て、その人たちもパパに怖れを抱き、パパのことを認めてくれたようだ。
わたしも同じようなことが出来るようになったら認めてもらえるだろうか。パパの知り合いには全員に認められるようになりたいと思うから、今は無理でもいつか認められるように頑張りたいなと思った。
「ほら、ベルレナ。こういう連中はこうやって力を見せつければ手を出してこなくなる。無用に力を示せばそれだけややこしい存在が近づいてくることも多いから面倒だけど、こういうやつらにはしっかり力の差を見せつけた方がいい」
「うん!!」
「エルフは特に選民意識が強い。けれど、俺の方が強いことを示せば大人しくなる。――こういう自分の方が偉いってやつには圧倒的な力を見せつければいい」
「うん!!」
「まぁ、そんな風にやっていたら色々権力者に目をつけられたりもするかもしれないが、ベルレナが誰を敵に回したとしても俺はベルレナの父親としてベルレナの味方をするから。ベルレナはやりたいようにすればいいんだよ。――ベルレナは、魔導師の俺の娘なんだから」
わたしが将来、どんな風に生きているのか。どういう風に人と関わっているのか。それはわたしには分からない。
だけど誰が敵に回ったとしても、パパだけはわたしの味方でいてくれる。
そう思うと、何だって出来る気がした。
「……魔導師ディオノレよ。その教育方針はいかがかと思うが」
「いいんだよ。ベルレナは優しい子だ。下手に敵をつくることなんてない。それでもベルレナに敵意を見せる奴なんてろくでもない奴だから」
エルフの人の言葉に、パパはそんなことをいってわたしの頭を撫でた。
――パパがわたしを優しい子だっていって、わたしの敵に回るならろくでもないなんて、わたしを信用してくれている言葉を口にしてくれているのがわたしは嬉しかった。
エルフの里では、あくまでわたしはパパのおまけみたいな立ち位置で、あまり親しい人は出来なかった。人間に反発を持つエルフに認められるためにはもっと魔法を得意にならないといけない。
いつか、パパのおまけとしてではなく、わたしをエルフの人たちが認めてくれたらいいなと思った。




