様々な種族の里を巡る ④
「わぁ……」
パパが次に連れて行ってくれたのは、樹人と呼ばれる樹と一体化したような種族だった。
わたしは公爵令嬢と生きてきた時に、その種族について聞いたこともなかった。もしかしたら人間たちが知らないだけで、実はひっそりと生きている種族が沢山いるのかもしれない。
連れて行ってもらった場所は、見るからにただの森の中だったのだけど、パパに気づいて動く樹があった。普段は樹に擬態しているようだけど、パパの姿に気づいてその擬態を解いてくれた。
肌の色は茶色。髪の色は緑。そういう見た目の人を見たことがなかったから不思議な気持ちだった。目や口も何だか樹に目と口を切り抜いたようなそんな感じだった。身体は人間と変わらないような感じだけど、足は根が張っているような足で、何だか色々不思議だった。
ただその種族の中にも、完全に人間と似たような見た目になっている人もいた。パパ曰く、それは人の姿に擬態しているだけらしい。力の強い樹人はそう言う風に出来るらしい。
「ディオノレ様、子供出来る。不思議」
「ディオノレ様、そっくり」
樹人たちは、わたしよりもずっと背が高かった。パパよりも背が高い。背の高い樹に擬態出来るような存在だからこそ、本来の姿も背が高いのかもしれない。
わたしのことを囲んで見下ろされて少し驚いたけれども、パパが止めないから危険はないんだと思ってわたしはにこにこと笑ってしまった。
樹人の子供たちは、なんだか小さな樹だった。
まだまだ自我もあまり芽生えていないらしい。樹人は大人になってからしか明確な自我が現れないものらしい。
そういうわけで子供たちに話しかけても「ぼえぇ」とかいう鳴き声ぐらいしか聞こえなかった。ちなみに木材を手に入れようとする人に狩られないように奥まったところにいるらしい。事故で狩られることも時々あるようだ。ただ根さえ残っていればよみがえることも出来るらしいけれど。
不思議な生態だと思う。
わたしは樹人の上に乗せてもらった。その状態で樹に擬態してもらうと、一気にびゅーって伸びていって、こんなに背の高い樹の上に乗って地面を見下ろすのが初めてだったから不思議な気持ちになった。
こうして上空から森を見ると、何だか今まで見ていた光景でも違った光景に見えてくる。
知っているはずの、慣れ親しんだはずのものだってこうして違う視点で見てみれば違ったものに見えるんだなぁと新たな発見をした気持ちになった。
「ベルレナ、楽しいか?」
ちなみにパパは樹人の上に乗っているわけではなく、魔法を使ってわたしと同じ高さまで飛んでわたしに話しかけていた。
「うん。楽しい」
わたしがそういって頷けばパパは笑ってくれた。
樹人は、何だかただ佇んでいるようなそんな雰囲気のある種族だった。だから交流といっても遊ぶとかではなくて、ただ樹人にもたれかかって眠ったりとか、そんな感じの穏やかな交流だった。
樹人の所に行った後は、フェアリーたちの所へと連れて行ってもらった。
見た目は小型の精霊にも見えるような見た目だった。小さな人間に羽が生えている。でも精霊とはまた違った種族らしい。彼らはフェアリー族といって、悪戯が好きで人にも時々ちょっかいをかけているらしい。
ただ害はない存在だから、一部地域の人たちにとっては良き隣人のような立ち位置のようだ。
わたしが「よろしくね」って笑えば、フェアリーたちも笑ってくれた。
でも一緒に遊んでいる間に髪の毛をぐちゃぐちゃにされる悪戯はされてしまったけれど。
毎日綺麗に手入れしている髪をぐちゃぐちゃにされてしまって、思わず悲しくなってしまった。
「うぅ……」
ぐちゃぐちゃにされた真っ白な髪を湖の水面で見ると、これを綺麗に元のように戻すことが出来るのだろうかと思うと泣きそうになった。
「……おい、お前ら。調子に乗るのもいい加減にしろ」
「ひぃぃい」
「ご、ごめんなさあああい!!」
わたしが泣きそうになったからだろうか、パパが魔力を垂れ流して怒ってしまった。その結果、フェアリーたちはびくびくしながら逃げてしまった。
パパは魔力を練って、わたしの髪を綺麗に戻してくれる。
「よし、これで戻ったな。あいつらの悪戯にも困ったものだな。大丈夫か?」
「うん。ちょっとびっくりしちゃって……」
わたしはパパの言葉に頷く。
そして恐る恐るこちらを木々の間から覗き込んでいるフェアリーたちと視線を合わせる。
「ごめんね。泣きそうになっちゃって。わたし、パパにそっくりなこの身体、大好きだから、なんかぐちゃぐちゃ悲しいなって。他の悪戯なら全然大丈夫だから!」
そう言ったらフェアリーたちは恐る恐るわたしに近づいてくれた。
そんなことがあったけれど、結局フェアリーたちと思いっきり遊ぶことが出来てとても楽しかった。
パパに「子供は何かあってもすぐに仲直りできるなぁ」なんて言われた。
フェアリーたちとは、悪戯されて、悪戯を仕返しして……みたいなそんな遊びばかりだった。




