様々な種族の里を巡る ②
「じゃあ、行くか」
「うん!」
今日はパパと一緒に獣人の里へ向かう日である。
獣人と呼ばれる種族にわたしは会ったことがない。ベルラ・クイシュインであった頃に勉強の一貫として話を聞いたことはあったけれど、その時の家庭教師は獣人の事をよく言っていなかった。
小さな頃のわたしは気にしていなかったけれど、こうしてパパの元で過ごすようになってみると、ベルラ・クイシュインであった頃に獣人の事をわたしに語った人は獣人の事を見下していたのだと思う。
ううん、それはわたしも一緒だったかもしれない。
わたしはお母様やお父様や周りに甘やかされていて、何でも自分の思う通りになると思っていて、周りがわたしのご機嫌を伺うのも当然だと思っていた。
身体を奪われて、良い子であるあの子の事を皆がほめたたえるのを見てようやくわたしが我儘で、嫌われていたのだと知ったぐらいだったもの。
「ねぇ、パパ、獣人たちって耳と尻尾を持ってるんだよね」
「ああ」
「それって色んな種族がいるの?」
「そうだな。色んな種類の耳や尻尾を持っている。希少な獣人は数が少ない」
「へぇ」
獣人と言ってひとくくりにしてしまいそうだけど、獣人の中にも沢山の種族がいるのだとパパはいう。
精霊たちと初めて会った時もワクワクしたけれど、獣人たちと会ったらもっと新たな出会いに私は楽しくなるだろう。
またパパのお友達に会うことも出来るだろうか。この屋敷にやってくるのは、ニコラドさんぐらいで他の人はやってこない。もっと此処に人がやってくるようになった方がパパも楽しいかな。
わたしがパパのお友達と仲良くなってお誘いをしたら、パパは楽しい気持ちになってくれるだろうか。
色んな種族の場所に向かって、パパのお友達と仲良くなれたらなって思う。
……わたしはパパのお友達にとっては、急に現れたパパの娘である。パパは魔導師という特別な立場の人だ。長い時を生きていて、強い力を持っていて――そういうパパの娘として受け入れてもらえるように頑張らないと。
「ベルレナ、どうした?」
「んー。仲良くできるかなって思って」
「ベルレナなら大丈夫だ」
パパはわたしならば、誰とでも仲良くなれると信じてくれている。そのパパの信用に応えたいなとわたしは思っている。
パパに手をひかれて、パパの転移の魔法で一瞬で移動する。移動した先は森の中である。何だろう、屋敷よりも暑い……もっと南にある場所にいるのだろうか。
というか、パパにかかれば国境などもきっと関係ないのだろう。何処へだってパパは行けるし、その魔法を使えば何だって出来るだろう。――そう考えるとパパが悪い人じゃなかったのは良いことだったのだろう。わたしこれからパパのように魔法を使えるようになれてもパパのように生きていきたいなと思った。
獣人の里は、精霊の住んでいた場所と違い、違う世界というわけではないみたい。ただ森の中で暮らしているようだ。
街などで暮らしている獣人もいるようだけど、パパが連れてきてくれたのは森の中の集落である。
そこを訪れた時、わたしがパパの娘だということで大変驚かれた。
やっぱり周りからしてみれば、パパは娘なんて作らず、作ったとしても大切にしないイメージだったらしい。
この獣人の里では、パパは「ディオノレ様」とだけ呼ばれていた。友人というより、パパを慕っているようだった。
「ディオノレ様には、世話になったからのぉ」
その里の長だという年配の男性はそう言いながらにこにこしていた。
獣人の子供たちと話して、遊んだ。最初はわたしがパパの娘だからと遠慮されていたけれど、追いかけっこをしたりしていたら仲良くなれた。
獣人の子供たちは身体能力が高くて、耳や尻尾が生えていて、わたしとは違う種族だけれども――それでもこうして一緒に遊べば種族なんて関係ないってのが良く分かった。




