幕間 悪役令嬢の取り巻きであるはずの少女 ②
アル兄様がベルラ様を見つけた。違う姿を持つベルラ様のことを見つけてくれた。
――私はベルラ様が消滅せずに存在していたことが、嬉しくて仕方がない。違う姿をしているとしてもベルラ様はベルラ様だろうし、私はベルラ様に会いたい。
……ベルラ様が私と同じ目にあっていたとしても、存在していることが嬉しくて仕方がない。
ああ、ベルラ様のふりをしているあの人は気に食わないけれど、ベルラ様に会える可能性が一欠けらでもあると思うと嬉しい。
あのベルラ様のふりをしているあの人は、王子殿下と婚約を結んだ。本当ならベルラ様がその位置にいたかと思うと、何とも言えない気持ちになる。それでもベルラ様がどこかで幸せそうに過ごしているのだと思うと、私はベルラ様のふりをしているあの人のことは前よりも気にならなくはなっていた。
アル兄様は……、ベルラ様が生きていると知って明るくなった。アル兄様にとっては、ベルラ様は特別だったのだと思う。あとアル兄様は、魔法が好きで、魔法の研究ばかりしている。
私も……ベルラ様に会うために魔法の練習をしている。
私にも家の意向で婚約者が出来た。その婚約者とはそれなりに上手く付き合えていると思う。
貴族令嬢の中で親しい友人も出来て、ベルラ・クイシュインに気に掛けられている私は、周りから見てみれば幸せな令嬢かもしれない。……ベルラ様のふりをしているあの人は私とアル兄様に関わろうとは前よりはしなくなったけれど、それでも時々話しかけてくるんだよね。
……私はベルラ様がベルラ様であるのならば、それを喜んだだろう。でもベルラ様は、私とアル兄様の慕っていたベルラ様ではなくなってしまったから。
だから本当の意味で私が心を許している相手はアル兄様だけだと思う。誰にも今のベルラ様がベルラ様ではないなんて言えない。今のベルラ・クイシュインは誰よりも慕われている王太子殿下の婚約者だから。
「ねぇ、アル兄様。ベルラ様と会いたいね」
「ああ」
「ベルラ様の新しい姿をアル兄様が見れたなんて羨ましいわ。私も今のベルラ様に会って、ベルラ様とお友達になりたいわ。ああ、今のベルラ様はどんなふうに過ごしているかしら。ベルラ様と沢山お話したいわ」
「そうだな。俺もベルラ様と話したい。……どんな声をしているのか、声も聴いてみたい」
「そうね! きっと身体が変わったってことは、声も変わっているのかしら?? ベルラ様は綺麗な声なのかしら、可愛い声なのかしら」
想像しただけでもワクワクしてしまう。
ベルラ様がどんな声をしていようとも、きっと素敵なんだろうな。
私もアル兄様も、ベルラ様の異変からベルラ様に会っていないのにベルラ様の今に夢を見ている。
――私はベルラ様が、素敵だと思い込んでいる。もしベルラ様が私とアル兄様が想像しているベルラ様じゃなかったとしたら、私はがっかりするだろうか。ううん、きっとしないだろう。
ちょっと拍子抜けはするかもしれないけれど、私はベルラ様がただ生きているだけでも嬉しいってそう思うと思う。それに人の本質を見抜く事が出来るアル兄様が、今のベルラ様を綺麗だと口にしたのだ、きっと素敵な人になっているだろう。
「ねぇ、アル兄様、私ね、ベルラ様に会うために一生懸命頑張るわ。そしてベルラ様に会った時にベルラ様の前で胸を張れる私になるわ。そのために頑張るの!!」
「……俺もベルラ様にまた会うために魔法の腕を充実させる。いることは分かったんだから、会えないなんてことはない。絶対に俺はベルラ様に会う」
力強くアル兄様がそう言った。
アル兄様は基本的に人に興味がない人だけれども、ベルラ様のことには誰よりも関心を持っている。
それは執着とも呼べるものかもしれない。
……まずは、ベルラ様に会うことが一番の目的だけど、その先のことも考えないと!
ベルラ様は新しいベルラ様になって貴族ではなくなっているのかもしれない。私はそういうベルラ様と友人になりたいし、ベルラ様に何かあるなら守りたいし。そういう気持ちが強いから、私は色んな事を経験しようとしているのだ。
アル兄様と一緒に街に出かけたり、剣を習ってみたり、魔法の練習に励んだり――結構貴族令嬢としてはお転婆なことをしているかもしれない。でも貴族令嬢としての勉学もちゃんとやっているからお父様とお母様にも文句は言わせないの!




