幕間 魔導師のパパ ②
「パパ、精霊たちの所、楽しかったね!!」
ベルレナが満面の笑みを浮かべて、俺に笑いかける。俺はその笑みを見ると、思わず笑ってしまう。
ベルレナが俺の娘になって早一年以上たっている。俺の娘になった当初は浮かない顔もしていたベルレナだが、すっかり俺の娘であることを受け入れて、最近は笑っていてほっとする。
精霊たちの元へベルレナを連れて行ったのだが、その時のことがベルレナはよっぽど楽しかったらしくその話ばかり話している。
ベルレナが楽しそうにしているのを見ると、連れて行って良かったというそういう気持ちがわいた。
ベルレナはやっぱり笑っている方がいい。過去の俺が知ったら信じられないだろうが、今の俺はベルレナが笑っていてくれると嬉しいと思う。
「ベルレナ、誰と契約をしたいとかあるか?」
「んー……まだ分かんない。ねぇ、パパ、精霊の居る所ってあそこだけなの?」
「いや、違うぞ。色んな場所がある。俺が関わりのない場所だって沢山あるしな」
「そっかぁ」
「まぁ、全員とは契約を結べるわけではないからゆっくり考えたらいい」
そう言ってベルレナの頭を撫でれば、ベルレナはにこにこして微笑んだ。ベルレナは元気で、明るい。それでいて意志が強くて、そういうベルレナが俺の娘になったことを俺は嬉しく思っている。
ベルレナは面白い魔力の色をしている。それでいてベルレナは真っ直ぐな少女だから精霊も惹かれるのだと思う。
俺もベルレナから影響を受けて、前よりも表情が柔らかくなったとニコラドやシルヴィーに散々からかわれた。俺は自分がこんな風に変化するなんて思っていなかった。昔の、ベルレナに出会う前の俺はこういう変化をする自分が想像できなかっただろう。
だけど、今の俺はその変化を嫌だと思っていないのだ。
ベルレナは今もかわいらしい少女の姿をしている。将来的に異性がベルレナを好きになるかもしれない。見た目もそうだが、中身で惹かれるものは沢山出てくるだろう。
ベルレナが望むなら認めなくはないが……いや、駄目だな、ベルレナが此処から離れていくのは寂しい。ベルレナがいない日常は今の所、考えられない。でも子供は気づけば大きくなるものだとニコラドも言っていたし……でもなぁ……とついつい先のことを考えてしまう。
「パパ、どうしたの? 難しい顔している」
「……何でもない。それより、ベルレナ、次は違う所に連れていくからな」
「本当? 楽しみにしてる! パパのお友達に会えるんだと思うと嬉しいな」
「いや、友達とかでは……」
「もー、パパは素直じゃないなぁ。絶対パパは友達が実際はいるんだよ! パパ、お友達は大切にしよーね!」
「……ああ」
友達なんて今まで深く考えたことはなかった。だけどベルレナからしてみれば、俺とシルヴィーは立派な友達らしい。
ベルレナが言うならそうなんだろうと思う。そして俺はただの知人だと思っていたけれど、ベルレナからしてみれば友達な存在が結構いるのかもしれない。
長生きをしている俺は、色んな事を経験してきて、ベルレナよりも色んな事を知っているはずだ。
だけれど、ベルレナに出会い、ベルレナに教えられることが沢山ある。
ベルレナは「パパに出会わなきゃわたしは大変だった! パパ、ありがとう!!」なんていって笑うけれど、俺の方がきっとベルレナに出会わなきゃもっとろくでなしだったと思う。
――俺は父親として、この子が笑っていられるように全力を尽くそうとただ思うのだった。




