新しい身体 ②
『ホムンクルス?』
ほむんくるす? ってなんだろう。聞いたことがない単語にわたしは首をかしげてしまう。
何のことなのか分からない。そして目の前のこの子は眠っているのだろうか? 何で液体の中で、裸で眠っているんだろう?
よく分からなくてディオノレさんを見る。
「ホムンクルス――人造人間。これは俺が俺の手で生み出したものだ」
『人造人間?』
「そう。魔導師たちの研究対象の一つだな。俺は自分の身体の一部を使って、この少女を作りだした」
『だから、ディオノレさんに似ているの?』
目の前の少女はディオノレさんにそっくりだ。
並んで居たら親子だとすぐにわかるだろう。魔導師って、そういうことも出来るのかと驚いた。
『この子、動かないの?』
「ああ。身体は作れたが、足りないものがあった。だから正確には目の前のコレはまだ生きていない」
『足りないもの?』
目の前の少女は、何処からどう見ても生きているようにしか見えない。なのに、目の前のこの子は生きていないのだという。
ディオノレさんの言っていることは難しくて、何を言われているのかいまいち分からない。わたしが不思議そうな顔をしていると、ディオノレさんが告げる。
「コレに足りないのは、魂だ」
『魂?』
「そう魂、心と呼ばれるものだな」
ディオノレさんはそう言って、目の前の少女を見る。美しい少女――まるで生きているかのようにしか見えない少女。だけど、ディオノレさんが言うには、心が足りない少女。
ディオノレさんは、少女からわたしへと視線を映す。
「お前、この身体に入れ」
『え?』
「いっただろう。この俺の作ったホムンクルスには、魂が、心がないと。どうやって何処から調達しようかと考えていたところに、丁度お前がいた。だからお前を使ってやる」
『……この子に私がなるってこと?』
「そうだ。目の前のこの身体には魂がない。そしてお前には、帰るべき身体がない。丁度いいだろう?」
にやりと笑ってそう告げるディオノレさんは、ちょっと怖かった。ディオノレさんは最初からわたしのことを使うといっていた。……その使い道が、この目の前の少女の身体に入ること。
目の前の少女を見る。
わたしは、お父様やお母様やお兄様に可愛いってずっと言われてた。美人さんになるだろうとも。
でも目の前の少女はもっとなんというか、神秘的な感じがする。それはディオノレさんに作られたものだからだろうか。
わたしが、この少女になる……。
考えてもぴんとこなかった。
本当に生きているように見えるこの子には、心がないのだろうか。わたしは、この子になっていいのだろうか。
そんなことをずっと考えてしまった。
昔のわたしならこんなことは考えなかった。もらえるものは全部もらおうとしただろう。だけど、散々周りの本音を聞いたわたしはこの身体をもらっていいのか分からなかった。
わたしが悩んでいると――、ディオノレさんはわたしを掴んだ。
なんで今の状況のわたしを掴むことが出来るのだろうか……などとよく分からなかったが、
「うじうじ悩むな。いいから入れ。お前は俺の研究に使われるために此処まできたんだろう。だったら拒否権はない」
と、そんな冷たい声と共に、掴まれたわたしは少女の身体へと投げ込まれた。
何か言う暇もなかった。
何か感じる暇もなかった。
わたしは、少女の身体へとぶつかると思った直後から、大きな衝撃を感じて、そのまま意識を失った。