パパとわたしの記念日と、居場所の話 ②
今日はわたしの、ベルレナとしての誕生日。パパがわたしを見つけてくれた日。
わたしにとっての人生の転換期は、二度あった。一度目は、わたしが身体を追い出された日。あの日、わたしという存在は、ベルラではなくなった。周りにとってのベルラはあの子になった。
そして二度目は、パパがわたしを見つけてくれた日。わたしはパパに見つけてもらえなかったら、誰にも知られることなく、誰も気づく事なく――そのまま消えていただろう。
わたしが、“ベルレナ”になって、こうして幸せに過ごせているのは全てパパのおかげだ。
「えへへ、パパ、ありがとう!!」
「何回お礼言うんだ? 俺がしたいからやっているだけだから、そんなに礼はいらない」
「ううん、幾らでもお礼を言うよ。だってわたし、パパに出会わなかったらこんなに幸せになれなかったから。パパがわたしを見つけてくれたからだなって思ったの。だからね、パパ、わたしを見つけてくれてありがとう!!」
パパの買ってきてくれたケーキを食べながら、わたしはパパに向かってそう口にする。
パパへのありがとうっていう感謝の気持ちで一杯だ。
「俺の方こそ、ありがとうな。ベルレナ。お前が来てくれたから、いや、来たのが他でもないベルレナだったからこそ、今の俺がいるんだから」
「なにそれ??」
「俺は正直自分勝手でどうしようもない人間だったからな。俺が見つけたのがベルレナじゃなければ散々利用して終わったかもしれない。気に食わなかったらさっさとホムンクルスから追い出して消滅させたかもしれない。俺は本来、そういう人間だからな」
パパはそんなことを言う。
確かにパパはわたしと出会った時に、わたしを利用すると言った。だけれど今のパパはわたしのことを可愛がって、甘やかしてくれている。パパが言っているようなことをパパがするとは思えなくて、首をかしげてしまう。
不思議そうな顔をしていれば、パパが静かに微笑みながらわたしを見る。
「意味は分からなくてもいい。ただベルレナが俺の娘になったからこそ、救われた者もいるってことだ」
よく分からないけれど、パパが笑っているからわたしは頷いておいた。
それにしてもパパが用意してくれたケーキや食事を食べながらお祝いをしてもらえるって嬉しい。
その後もパパに、今日はわたしの誕生日だから何も家事はしなくていいって言われた。けれどわたしはパパと一緒に居たかったからパパと一緒に行動していた。
「パパと一緒に何かするのが一番楽しいもん!」
って口にしたらパパに思いっきり頭を撫でられた。
パパはわたしの頭を撫でるのが好きだ。わたしもパパに頭を撫でられるのが好き。
ニコラドさんもお祝いに来てくれた。ニコラドさんは時々やってきて、いつもわたしにプレゼントをくれるのだが、今日は誕生日だからかいつもよりも量が多かった。それにしても、ニコラドさんはわたしの好みをちゃんと把握してくれているみたいで、いつもわたしが喜ぶものばかりくれる。
「ニコラドさん、ありがとう!!」
笑顔でお礼を言ったら、ニコラドさんがわたしの頭を撫でようとして……、パパに遮られていた。そしてニコラドさんとパパと口喧嘩が始まる。本気の喧嘩ではない。仲良しだなぁと毎回わたしはパパとニコラドさんを見てしまう。
その後、パパが「帰れ」といってすぐにニコラドさんを追い返したので、またパパと二人きりである。
パパと一緒にのんびり過ごすのが何よりも幸せだと感じる。
ちなみにパパからはペンダントをもらった。大きな宝石のついたもので、こんなものもらっていいのかと思ってしまった。
「これは守護石だ。ベルレナに何かあったら守れるように魔法を込めてある」
「わぁ……すごい。こんなものいいの? 見た目も素敵!!」
「ああ。俺があげたくてあげているからな。ベルレナ、街にでも行くか? 他にもほしいものがあったら幾らでも買うぞ」
ペンダントは早速身に着けた。
そのあとにパパに街に行くかと問いかけられた。街に行くのも楽しそうだ。パパと一緒に買い物もいいなぁと思うけれど、今日は……。
「ううん、出かけない。わたし、パパと一緒に家でのんびりしたい。パパと過ごせるの幸せだから。パパの時間をわたしがもらえたらなって」
わたしはそう口にした。
「そのくらいなら当然だ。何をしたい?」
「んーとね」
それからパパとずっと一緒に過ごした。
一緒に魔法の練習をしたり、一緒に本を読んだり……。パパにはいつもやっていることと変わらないって言われてしまったけれど、それはそれだけわたしがパパと過ごすのを楽しんでいる証なのだと思う。パパとの何気ない日常が本当に楽しいのだ。
そうやって過ごしている中で、パパがじっとわたしを見つめていた。
「パパ、どうしたの?」
何かわたしに聞きたいことはあるのだろうかとわたしはパパに問いかける。
「……なぁ、ベルレナは“ベルラ”だった頃の家族のことは気にならないか」
……パパが口にしたのは、そんな、わたしにとっては予想外の言葉だった。




