新しい身体 ①
『わぁああ!! 此処何処なの? 凄い、なんかごちゃごちゃしてる!!』
「うるせぇな。此処は俺の家だ」
『家? 広い!!』
視界に入ったのは暖炉。そして広々とした部屋。その部屋には沢山のものが溢れていた。見てもなんだか分からないような気持ち悪いものも沢山あった。そして沢山の紙が散らばっていた。
その紙に書いてある内容をちらりとみたけれど、なんだかよく分からない絵みたいなものが描かれていて、なんなのかさっぱり分からなかった。
目の前の人は、ディオノレさんは――魔導師と名乗っていた。魔導師ってなんだろう? 魔法使いとは違うのだろうか。魔ってつくから魔法が使える人だとは思う。
そういえばわたしもあのまま身体を使えていたら魔法を習うはずだった。お兄様が魔法を使っているのを見て、魔法を使ってみたいなって思っていた。
わたしの家は火の魔法が得意な家で、わたしは家族のように魔法を使うのを楽しみにしていた。だけれど、それは叶わなかった。
わたしの変わりに、わたしの身体を使っているあの子がわたしのかわりに魔法を習っていた。だけどあの子は火の魔法が得意とはいえないようだった。
なぜか「おかしいわね。ベルラは子供の頃は火魔法が苦手だったのかしら?」と謎発言をしていた。あの子は本当のわたしではないことを知っているのに、わたしのふりをずっとしていた。
……なんだかあの子のことを考えていると悲しい気持ちになった。
「何、落ち込んでる?」
『……わたし、身体、取られたから』
「あー、なんだ、お前、魂が彷徨っていて死霊かと思ったら神の悪戯の被害者か」
わたしの簡潔な言葉でもディオノレさんは何か分かったらしい。神の悪戯ってなんだろう?
「時々あるんだよ。百年とかそのくらいに一回、世界のどこかで時々行われるものだ。元々の魂を追い出して、違う魂を身体に入れる。その異なる魂が身体に馴染むまでの間に周りが気づけば戻れるが、そうじゃなければ元の魂は消える。お前は周りに気づかれなかったってことか」
『……うぅうう』
泣きそうになる。
ディオノレさんは容赦がない。わたしに同情もなにもしていなくて、ただただわたしに対して事実だけを告げているのは分かる。だけど誰にもわたしがわたしじゃないと気づかれなかったことを改めて実感して悲しかった。
それにしてもわたしだけかと思った。こんなよくわからない状況になっている人が他にもいたんだという驚きも大きい。でもそうか、わたしは気づかれなかった。だからディオノレさんがわたしに気づかなきゃ、わたしはそのまま消えるところだったのか。
「そんな声をあげるな。安心しろ。お前は消えない。俺が使う」
そんなことを言いながら、ディオノレさんはわたしに目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
口調はぶっきらぼうで、決してその態度は優しくない。
今までわたしの周りにいなかったようなタイプの人。だけれど――根は良い人なのだと思う。
それが自分のためだったとしても、ディオノレさんはわたしのことをちゃんと見ている。わたしのことを見つめて、わたしに話しかけてくれている。
そう思うと、泣きそうな気持ちは無くなった。
『それは、結局どういうことなの?』
「――そうだな。まずは見た方がはやいか。ちょっとこっちにこい」
ディオノレさんは私が問いかければ、そう告げる。別の場所に向かうらしい。此処では説明が出来ないのだろうか? 見た方がはやいというのはどういうことなのだろうか?
よく分からないけれど、ついていくほかになんの選択肢もない。
……ディオノレさんが話しかけてくれるから、わたしをちゃんと見つめるから、自分に身体がないことを忘れそうになる。だけど、やっぱりわたしは周りには触れられない。わたしが触ろうとしてもすり抜けていくことが悲しかった。
わたしとディオノレさんはその広い部屋を出る。廊下も広い。住んでいた屋敷よりも広く感じる。だけど他に気配がしないから、ディオノレさんはこの広い屋敷の中で一人で住んでいるのだろうか?
そんなことを考えながらディオノレさんの後をついていった。たどり着いたのは、先ほどの部屋よりも小さめの部屋である。その部屋には大きな瓶のようなものがあった。
そしてその液体の入ったそれの中には、美しい少女がいる。
真っ白な肌に、真っ白な髪。瞳を閉じた、わたしと同じぐらいの年の女の子。
『わぁ、綺麗な女の子!! この子は?』
「これは俺が作ったホムンクルスだ」
ディオノレさんはそう言った。
書きたくなって五万字は書き溜めできたので、投稿します。
ストックなくなるまでは毎日12時投稿するつもりです。
よろしくお願いします。