レンドンの街 ①
「パパ、とても綺麗だね」
「ああ」
わたしとパパは今、乗り合い馬車の中にいる。
馬車の外を見て、はしゃぐわたしをパパは優しい目で見てくれる。乗り合わせた老婦人たちがわたしとパパのことをほほえましい目で見ていてちょっと恥ずかしくなった。
パパの転移魔法で移動は一瞬なのだけど、パパが「普通の旅行気分も味わった方が楽しいだろう」と口にしたため、レンドンの少し近くの場所まで転移で移動して、その後は馬車でレンドンの街まで向かうことになったのだ。
わたしが村を見て見たいというのを言ったのもあって、村も経由するルートである。
それにしてもこの乗り合い馬車に最初乗った時は驚いたものだ。なぜかって、ベルラだった頃に乗った馬車とくらべものにならないほど揺れて、乗り心地が悪かったのだ。パパが魔法を使ってくれなかったら、今頃ぐったりしていたかもしれない。
「お嬢ちゃん、お父さんと一緒に旅行かい?」
「うん!」
おばあさんに問いかけられて、私がそう口にしたらおばあさんはにこにこと笑ってくれた。
「よかったねえ」
「うん!」
それから老夫婦たちと一緒にしばらく会話を交わした。わたしとパパのことを仲が良い親子だと、そう言って笑いかけてくれると嬉しかった。
――私とパパは、実際の親子ではない。
この身体はパパが作ったホムンクルスというもので、私の魂はパパの娘というわけではない。それでも私たちは外から見たらちゃんと親子に見えるのだ。その事実が嬉しかった。
嬉しくなってにこにこ笑っているうちにレンドンの街へとたどり着いた。
「わぁ……」
わたしはレンドンの街へたどり着いて、思わず感嘆の声をあげてしまった。
そのレンドンの街は、わたしが一度も見た事がない光景だった。今はまだ昼間だからランプの光は目立ってはいないけれど、それでも美しいなと思った。
「パパ、凄く綺麗だよ!!」
「そうだな」
「ね、パパ、パパは何処を見てみたい?」
「ベルレナ、見て回るよりも先に宿を取ろうか」
「あ、そっか!!」
今回は数日、此処に滞在することになっている。折角だからこそ、レンドンをゆっくり見て回るのだ。
なんだかパパと一緒に宿に向かうというだけでも何だか楽しい気持ちになる。
レンドンの街は、人が溢れていて、パパに一生懸命ついていこうとしていたらはぐれそうになってしまった。そしたらパパがそんなわたしに気づいて、わたしの身体を抱えて抱っこしてくれた。
パパに抱っこされてから見る周りの景色は、いつも見ている低い位置からの景色とは違って楽しいなと思う。パパに抱っこされたまま、きょろきょろと私はあたりを見渡す。
わたしと同じように親に抱きかかえられている子供も見える。でもそれはわたしよりも小さな子供がおおくて、この年で抱っこされているのは少しだけ恥ずかしいことなのかもしれないと思った。それでも私はパパに抱っこされるのが嬉しいし、パパも私を抱っこして嬉しそうにしているから抱っこされたままになった。
このレンドンの街には、幾つもの宿があるらしい。
その中でどの宿がいいだろうかとパパは私に相談する。わたしは何処でもパパと一緒なら良いと思っている。パパと一緒ならば、どこでだってわたしは嬉しいから。
「あそこの宿はどうだ?」
「見た目が凄い綺麗だね!」
「そうだな。でも宿は色々あるからな」
「わたしはパパと一緒ならどこでもいいよ?」
「でもベルレナは此処に来たのは初めてだろう。折角ならよい宿がいいだろう」
パパはそんなことを言いながらわたしよりも熱心に宿を探していた。パパは綺麗な人だから、パパを見てぽーっとしている女性が沢山いた。わたしがいるから声をかけてこなかったけれど、パパだけならきっとパパは沢山声をかけられるのだろうなと思った。
中にはパパがわたしを抱っこしていても話しかけてくる人も少しはいた。パパは相手にしていなかった。話しかけてきた人にパパが冷たい対応をしていて、少しびっくりした。
「……ベルレナ、この宿にするか」
「綺麗で大きな宿だね」
パパが最終的に選んだ宿は、大きな宿だった。従業員の人も丁寧で宿泊費用も結構する気がする。
公爵令嬢だった頃の私は何もお金を使うことを躊躇っていなかった。でもパパと一緒に過ごしていて、金銭感覚も変わった自覚はある。ただパパは「お金は気にしなくていい」といってさっさと部屋を取っていた。
パパと私は同じ部屋である。
パパと一緒に宿の中へと入る。わたしは初めての宿に嬉しくて、にこにこしてしまった。ベッドの上に寝転がってはしゃぐ私を、パパは笑いながら見ていた。
なんだか恥ずかしい。けれど、パパの優しい表情を見てるとわたしは嬉しい。
「ねぇねぇ、パパ、これからどうするの? わたしね、まだ全然元気だから街を見て回りたいんだ。パパは? パパが疲れてるなら宿でのんびりするのもいいよ!」
「俺もそんなに疲れていない。見て回ろうか」
「うん!!」
わたしはパパの言葉に頷いて、パパと一緒に宿を出るのだった。
パパと一緒に見て回るの楽しみだなと、そんな気持ちになってわたしは嬉しくて仕方がなかった。




