パパの問いかけとわたしのいきたい場所 ②
「ねぇ、パパ。これ、凄く綺麗」
わたしはそう言いながら、一つの絵をパパへと見せる。その絵はとても巧妙に描かれていた。
美しい街並みの風景。
レンガ造りの建物が並び、色とりどりのランプが並んでいる。
なんて綺麗な街だろうと、わたしの胸は高鳴った。
「ここか。此処は街並みが綺麗なことで有名なレンドンの街だな」
「パパは行ったことある?」
「此処がもっと小さな村だった時に行ったことはあるな」
「そうなんだ……」
パパはわたしよりもうんと長生きしていて、だからこそ多くの場所を訪れたことがあるのだろう。
絵を見ている限り、このレンドンという街はとても栄えている。この街が昔は村と呼べるほどに小さかったなんて信じられなかった。
私は村というものを、お父様たちに習った範囲でしか知らない。
信じられないほど少ない人たちの共同体。魔法具も少なくて、食べ物を作っている人たちばかりがいると聞いた。
わたしには関係ない世界の話だと、気にしたこともなかった。けれど、今は村というものにも行ってみたいと思った。その村を見た後に、このレンドンの街に行ったら何か違う感覚に陥りそうな気になった。
「此処に行くか?」
「候補にしておく!!」
「行きたい所、全部連れて行くから全部言ってくれていいぞ」
「もう!! パパはわたしを甘やかしすぎ! いいの。わたし、とりあえずパパと行きたい場所を一つ決めるの」
パパの言葉に頷いて、パパに甘やかされて全部言うことを聞いてもらっていたらわたしはまた我儘になってしまう。
パパはわたしがあまりにも我儘を言い過ぎると注意すると言っていたけれど、パパと訪れる一つ一つの場所を大切な思い出にしたいから、楽しみは時々にしておきたいなと思った。
「わぁ……ねぇ、パパ。この湖、とても大きいんだって!! どのくらい大きいのかな?」
「そうだな。深さもこの屋敷が四つ縦に並んでもすっぽり入るぐらいだ。面積も広いぞ」
「そうなの? パパ、何でそんなこと知っているの?」
「一回、どのくらいの深さか気になって潜水の魔法使って潜ったからな。横穴も多くてまるで迷路みたいで楽しいぞ。まぁ、魔物も多いから一人で行くには危険だが。この湖はその美しさで有名だが、この本を書いた者は水中の美しさは知らないんだろうな」
「へぇ」
魔物が居る場所だと普通の人ならばきっと危険だろう。
パパが水中の様子を知っているのは、パパが魔導師でとても強いからといえるだろう。やっぱりパパは凄いなと思った。
パパはきっと普通の人がいけない場所に沢山いったことがあるのだろう。それだけの力をパパは持っている。
そういえばお父様も、お金がなければ入れない場所があるとかそういう事も言っていたっけ。お金を持っているって一つの力なのかもしれない。
それからパラパラと本をめくりながら、いきたい場所を幾つか選んでいく。その中でベルラ・クイシュインだった頃行ったことがある場所もあって、少しだけ気になったけれど、わたしは首を振った。
わたしはもうベルラじゃない。ベルレナとして此処に居る。
それにわたしの身体を奪ったあの子のことを憎んでいるわけではないけれど、目の前で動いているベルラを見たらわたしはどんな行動をしてしまうか分からない。
わたしはパパと出会えて、パパの娘になれて幸せだけど、まだあの時の神の悪戯と思える出来事に対して折り合いがつけれていないのだ。
それよりも、パパと行きたいところを考えないと!!
行きたい場所は正直言って沢山あって、何処に行こうか悩んでしまう。
パパと折角のおでかけ。パパがわたしを連れて行ってくれるといってくれているのだ。パパも楽しめるところがいいな。
「ねぇ、パパは何処に行きたい?」
「俺はベルレナが行きたいところでいいんだ」
「……でもわたしだけ楽しいんじゃ嫌だよ」
「俺はベルレナが楽しそうだと嬉しいからいいんだよ」
パパの行きたいところはどこだろうと問いかければ、そんな風に笑われた。
優しく、慈しむような笑みを向けられると何だか幸せだなぁと思った。パパがそう言うならわたしだけでとりあえず決めよう。
どこにしようかな? とパパの膝の上で悩む。
どこがいいかなとずっと悩んでいるわたしをパパは優しい目で見ている。
「決めた。レンドンの街に行きたい!!」
そしてわたしはレンドンの街に行ってみたいとパパへと告げるのだった。




