幕間 悪役令嬢の取り巻きの兄 ⑨
「もう、新入生の受験の時期か」
俺、アルバーノは窓の外を見て思わず呟く。来年の新入生向けの試験が学園では最近行われている。
俺の妹であるネネデリアも来年入学予定である。
試験に関してはもう少ししたら受けに来ると聞いている。俺は学園に入学してから一度も領地には帰っていない。
正直実家はネネデリア以外と話すのは疲れる。
両親も兄も俺のことを疎んでいる。それに俺がネネデリアに悪影響を与えるとも思い込んでいる。
ベルラ・クイシュインとして生きている存在とネネデリアが距離を置こうとするのは俺の影響があると思われていたりする。というか、ネネデリアのことをいつまでも自分達の言うことを聞き続ける娘又は妹として見ているのだろう。
そこにネネデリアの意思というものは関係ない。……なんというか、彼らにとっての都合の良い伯爵令嬢としての在り方を望まれているのだと思う。
だからこそ余計にネネデリアは俺以外の家族と距離を置きたがっている一面も強いのだろう。それも仕方がない話だとは思う。
ネネデリアからの手紙には、俺に会うことを楽しみにしていると書かれていた。試験を受けた後に、そのまま学園都市に滞在し続けたいぐらいらしい。ただしそれに関しては両親たちに反対されて、一度帰らなきゃならないとも聞いた。
家族とずっと一緒にいるよりも、一人で過ごす方が楽なんだろう。
ネネデリアは俺と違って、社交性はある方だとは思う。ある程度同年代の令嬢達とも関わっているし、ベルラ・クイシュインとも当たり障りのない関係は築いている。
それもネネデリア本人は、人と関わることをそこまで好いているわけじゃない。というより、ベルラ・クイシュインという王太子の婚約者を崇拝している者達ばかりで居心地が悪いというのが正しいのかもしれない。
俺とネネデリアの家は、他の家族はベルラ・クイシュインのことを素晴らしい令嬢だと言い放っているから。それこそそうではないと否定したら叱られるぐらいには。
そういう場所だからこそ、ネネデリアが早く離れたいと思っているのは当然のことだろう。
ネネデリアの婚約者も、ベルラ・クイシュインの傍に侍っている。余計にそれで、ネネデリアは色んなことが嫌にはなっていそうだ。
……ベルラ様のことは手紙には書いていないけれど、ネネデリアもベルラ様に会いたいという気持ちは俺と変わらないだろう。
婚約者との婚約も出来ればどうにかしたいみたいだし、学園生活中に俺も出来る限りのことはして、ネネデリアが生きやすくはしたいとは思う。
俺は学園卒業後は家とは縁を切るつもりではある。ネネデリアはどうするつもりなのかはまだ分からない。ネネデリアは俺ほど割り切れていないかもしれないから。
ただ……もしネネデリアが俺と同じように家から自立したいのならば、それは手伝いたい。他の家族はともかくとしてネネデリアのことは俺にとって大事な妹だ。
「アルバーノ、お前の妹も入学予定なんだろう? 会うの楽しみだなぁ」
エラコーダはそう言ってにこにこしていた。俺の妹であるというだけで、ネネデリアに対して興味を持って仕方がないようだ。
ネネデリアだって俺が同年代の学生と仲良くしているというだけでエラコーダに興味を抱くんだろうなとそんな想像が出来た。案外、二人とも仲良くなるかもしれない。
とはいえ、ネネデリアは学園生活で異性とどれだけ仲良くなろうとも婚約者がいるからちゃんと距離は保つだろうか。
……しかしネネデリアの婚約者は噂に聞くだけでも散々、ベルラ・クイシュインの傍に侍っていると聞く。俺が周りから情報を聞いているだけでもそうなのだから、実際に近くで見ているネネデリアはその様を何度も目撃しているはずだ。
それでもまだ婚約解消できていないというのだから、貴族同士の婚約関係というのは面倒なものだと思う。
「ネネデリアが学園に入学したら紹介する」
「ああ。それにしてもアルバーノが可愛がっている妹かぁ。可愛い?」
「……一般的に見たら可愛いんじゃないか?」
俺がそう答えたら変な顔をされた。そもそもネネデリアのことを可愛いとか可愛くないとか特に考えたこともない。
ベルラ様の話が出来る唯一の存在で、俺はネネデリアに何かあったら助けようとするだろう。家族としての親愛感情は確かにあると思う。ただ可愛いかと言われたら、そういうわけでもない。
ただ一般的に考えれば可愛いんじゃないかとは思う。
「アルバーノと妹ちゃんは話を聞いている限り、仲が良さそうに感じられるけれど……よく分からないな」
そしてそんなことまで言われた。
一般的な兄妹関係もよく知らない。ただ仲は悪くはないとは言えるだろう。
「そういえば、話は変わるけれどこの前試験に受けた子の中で滅茶苦茶可愛い子がいたんだって!!」
「そうか」
「本当にアルバーノはそういうの興味ないよなぁ」
エラコーダにはそう言われた。
……そのエラコーダの言う“可愛い子”の正体を知るのは、それからしばらく経った後のことである。




