幕間 悪役令嬢の取り巻きであるはずの少女 ⑦
学園に入学する日が少しずつ迫っている。……私は実家で過ごす日々が窮屈だから、早く学園に入学したくて仕方がない。
アル兄様とお喋りをしたい。
アル兄様ってば、自分の家が居心地が悪いからと全然帰ってこない。私はアル兄様とベルラ様のことを喋りたくて仕方がない。アル兄様からの手紙は、ベルラ様のことはあまり書かれていない。
他の人に見られた場合のことを考えて、当たり障りのないものだ。
というか、両親たちは私がアル兄様と関わって仲良くすることを良しとしていない。だから学園に遊びに行くことも許してくれなかった。アル兄様に会いたくて、お喋りをしたいとそんな気持ちしかない。
もうすぐ学園に入学するための試験が行われる。その試験を受けに行く際には、アル兄様に久しぶりに会えるかな。それを思うと嬉しくなった。
試験は長期間行われるらしい。というのも、遠い国から学園の入学試験を受けに来る人も多いもの。学園は多くの人に開かれた学びの場だ。
アル兄様はそこで、優秀な成績をおさめているらしい。私にとって自慢の兄だ。
アル兄様はとてももてているらしい。縁談もよく来ていると聞くけれど、全て断っているんだとか。……他の家族はアル兄様を扱いにくい人間だと諦めている。アル兄様のことを嫌っている両親たちを見ると、凄く嫌な気持ちになる。
だからアル兄様の婚約者なんて勝手には決めないだろう。そもそも勝手に決められたら、アル兄様はすぐに反発するだろう。そもそも学園を卒業した後は、この家から縁を切るんだろう。
……私は、どうなんだろう。
正直、アル兄様以外の家族は好きじゃない。それなのに私は伯爵令嬢という枠組みの中に居て、そこから居なくなることが出来るのかと考えると難しい。それでも……私は嫌だとは思うから、学園に通ううちに自分の未来を切り開けたらいいな。
……アル兄様の力も借りよう。婚約者との婚約も出来ればどうにかしたいし、やらなければならないことは幾らでもある。実家に居る間は、そういった反発を見せたら“おかしい”だとか言われて今よりも自由がなくなっただろう。
アル兄様は、私の自由を望んでくれている。私の意思を確認してくれる。だけど、他の家族は違う。
彼らの望む、理想の“伯爵令嬢”でなければ嫌がるだろうと理解が出来る。
私はそんなことを考えて、ふぅと大きく息を吐く。私の周りに居る人たちは、あの人――ベルラ・クイシュインのことを特別視している。なんというか、あの人のことの言うことを正しいと頷く人たちばかりだ。
私のようにあの人に対して嫌な思いをしている人は全然居ない。もしかしたら居るかもしれないけれど、少なくとも次期王妃という立場のあの人の機嫌を損ねようとする者は少ない。
学園に行ったら、どうなんだろう? 沢山の同年代の人達が集まる場所に行ってもあの人は、誰もに好かれる公爵令嬢のままで居られるんだろうか。少なからずあの人に反発を持つ人が居たら、仲良くなれるかも……なんて性格悪いかもしれないけれど思った。
少なくとも私の……あの人と近づきたくないとか、仲良くなりたくないとかその感情を認めてくれる人とじゃないと仲良くはなれない。
なんだろう、私は心から仲良くなれる友達って居ない。
この国の人達は、大体があの人を好きな人ばかりで、本当に居心地が悪い。平民だと別なのかもしれないけれど、少なくとも貴族達はそう。
学園に入学したら、この息苦しさも少しはなくなるだろうか。
アル兄様とは、学園に入学したら沢山喋ると思う。幾らでもベルラ様談義をしたい。アル兄様はずっと、新しい姿をしたベルラ様のことを探しているはずだしそのあたりの近況も聞いておきたい。
でも人気者のアル兄様と仲良くして居たら、面倒な人達に絡まれたりもするんだろうか。
兄妹だからそこまでやっかみはうけないとは思うけれど……私はアル兄様ほど、整った顔立ちはしていない。初めて会う人には、がっかりされるかも。
試験を受ける前だけど、学園の入学試験は問題なく解けるだろうと家庭教師からも言われている。だから入学の準備は着実に進められていた。
相変わらず、使い魔を持つことを望まれたりはしている。ベルラ様の影響で同じ年の令嬢は使い魔をほとんど持っているから。
ただでさえ今も使い魔を持っていないことで色々なことを言われてしまったりしていた。それでも私は責任も持てないのに使い魔を持とうとは思わない。
一貫してそうやって言っているのに、周りは結構煩い。学園にいって、アル兄様と相談して……その上で契約を結びたい使い魔の子が居たら別だけど、そうじゃないなら使い魔は持たなくていい。
学園では私と同じように使い魔を持たない人もいるだろうか。もしその人が使い魔を持たない選択をどうこう言われていたら、庇うぐらいはしたいかもしれない。
ベルラ・クイシュインが魔物討伐という貴族の責務をこなすために、人々を守る行為をするために……使い魔を持つ行為は素晴らしいことだと、周りの人々は言う。
でもそもそも戦う力がないのならば、大人しく守られればいいとも思わなくはない。前に立って戦うだけが人を守る行為にはきっと繋がらない。
戦いに行く男性を待つ女性達だって別の戦い方をしている。……あの人は戦う行為を望んでいないらしい。自分で戦いに行って、吐いたりしたと聞いた。それでも頑張っているあの人は立派だと、両親やキデ兄様は言った。
なんだかそういう事情が外へと広まっているというだけでも、パフォーマンスにしか見えないなと思ってしまうのは私がとがった考え方をしているだけなのかもしれない。
なんにせよ、しばらくしたらようやく実家を出れる。そしたら、もっと……私も息を吸いやすくなるはず。そのことが楽しみだった。




