幕間 身体を奪ったあの子 ③
「どうしてなのかしら」
私は部屋で頭を悩ませる。
私はベルラ・クイシュインとして転生した。私が転生した影響で何かしら変わっているのかもしれないが、まさかネネデリア・オーカス――ネネちゃんと仲良くなれないことは想定外だった。
私はネネちゃんの事が前世から気に入っていたのだ。
小動物系で可愛くて、ゲームではベルラのせいで自分を着飾ったりはしていなかったが(ベルラを目立たせるために)、今世では私がベルラなのだから、ネネちゃんのことを思う存分可愛がることが出来ると思ったのに。ネネちゃんに「ベルラ様」って呼んでもらって、仲良くできると思ったのに。
……どうしてなのだろう。
私が転生する前のベルラの事を嫌っているからではないかと思ったのだ。だってベルラは我儘だったから。我儘で自分勝手で――見た目が良くてもアレはないと思えるようなお嬢様だったベルラ。それが理由でゲームのベルラは嫌われていたはずだ。
ネネちゃんに怖がられていて、ネネちゃんはいつもベルラに振り回されていたのだ。
だからこそ私は……そんなベルラとは違うよという態度をお茶会の度に見せていた。ネネちゃんとその兄であるアルバーノ・オーカスはクイシュイン公爵家と親しい家だからこそ、お茶会にはいつも参加しているから。
お兄様もゲームと同じようにアルバーノとそこまで仲良くないみたいだし、何でなのかしら?
私が転生者だからなのか――と考えると、ゲームの世界と変わっていって、ゲームの世界の知識は徐々に役に立たなくなるのかもしれないと思った。でも前のベルラとは仲良くなったはずなのに、私と仲良くなってくれない意味が分からない。
「ネネデリア様、私とお話しませんか?」
「ネネデリア様は何が好きなのかしら?」
「ネネデリア様は――」
私がどれだけ話しかけても、親しみを込めて笑いかけても――何故だか、ネネちゃんとの距離は縮まらない。
お茶会に参加している他の子供達は「ベルラ様とネネデリア様は仲が良いのですね」なんて言ってくれるけれど、当事者だからこそ分かる。これは私がただ話しかけているだけで、決してネネちゃんは心を許してくれていないのだ。
乙女ゲームの世界では、ネネデリアはベルラに怯えていたけれど、楽しかった記憶がなかったわけではないと語っていた。そのネネデリアにとって楽しかった子供の頃――が今のはずなのに、何故ネネデリアちゃんは私と距離を置いているのだろうか。
もちろん、身分が高い私が話しかければネネちゃんは返事をくれる。——でもそこに心がない。
それにアルバーノもだ。
アルバーノ・オスカーは、幼い頃からお兄様と仲が良くて、ベルラとも仲が良かったはずだ。ベルラが横暴になって、あれだけやらかす前、子供の頃はベルラと仲が良かったはず……ファンブックにはそう書かれていたし。
お兄様が言うには、二年前まではもう少しアルバーノと仲良かったらしい。やっぱり私がベルラとして転生をして、二年間もお茶会に来れなかったからだろうか。でもその間にお兄様はお茶会に参加していたはずだし……、やっぱりお兄様とアルバーノの距離が遠い意味が分からない。
「そういえばアルバーノは……一番酷いベルラの結末の処刑エンドの時とか、あとは追放エンドの時によく分からない言葉を残しているのよね」
確かそうだ。アルバーノは、ベルラが破滅エンドを迎える時に残念そうな顔を一人浮かべている。とはいえアルバーノはベルラの味方だったわけでもなく、ベルラの手伝いも何もしない。
ただベルラが馬鹿な行動をするのをたまに冷めた目で見ているスチルはあった。そして最後には「あんなに綺麗だったのに」というよく分からない発言をしているのだ。
その発言を見た乙女ゲーマーはアルバーノはベルラを好きだったのか? ベルラとの間にフラグがあったのか? とそう言ったことを考察していたものだ。同人誌ではベルラが生き残るエンドが書かれていて、それで相手役になっていたのはアルバーノが多かった。
ちなみにこのゲーム逆ハーエンドもあった。
逆ハーは現実では難しいだろうが、逆ハーエンドも中々良いエンドだった。ベルラはどのエンドでもほとんど破滅が待っている自己中心的なキャラクターなのだが、見た目がとても良いのでその見た目にひかれているゲーマーは少なからずいて、同人でベルラが出ることも多かったらしい。
「理由は分からないけれど、ネネちゃんとアルバーノが私と距離を置こうとしているのは何か誤解しているのかもしれない。なんとか……ゲームが始まるまでに二人の誤解を解いて、仲良く出来たらいいのだけど……」
正直言って幼少期のネネちゃんとアルバーノと仲よくしたいというのが、『ライジャ王国物語』にはまり込んでいた私の本音である。
でももしすぐに仲良くなれなかったとしても、いつか、ゲームが始まるまでには是非とも仲良くなってやるんだから! と私はそんな決意に燃えるのであった。




