精霊獣に会ったその後のこと ⑦
こうして魔力が身体を巡り、外へと放出される感覚がわたしは大好き。
魔法を使うこの瞬間が、楽しいなと思う。それにこんなに魔力を込めても問題がない時ってあんまりないもん。
だからこういう状況なのに楽しいなとそんな気持ちになる。
わたしの魔力が、その檻を取り巻く。
そしてわたしの魔力に押されて、そのまま檻が壊れていく。
その様子を見て、思わずふふんっと自慢げに声が出た。だってわたしの力で精霊を閉じ込めていた檻が壊れたんだよ!!
ただ檻が壊れても……精霊は弱っているみたい。
床の上に力なく倒れている精霊に近づいて、わたしは抱える。
「ねぇ、パパ、ママ。この子を元気にするにはどうしたらいいの?」
わたしよりもずっとパパとママは精霊について詳しい。だからこそきっと二人ならこの子をどうやったら助けられるか教えてくれるはず!!
わたしはそう思って二人の方を振り返る。
「そうだな。魔力を分け与えるのが一番だと思う」
「あと、早急に回復をさせたいなら契約をすることが良いとは思うけれど……、そういう契約は慎重にすべきなのだもの」
その言葉を聞きながら、わたしはじっと抱えている精霊のことを見る。
人の都合でこんな風に弱っているなんてとても悲しいことだ。そもそも誰かのせいでこういう状況になるのってわたしは好きじゃない。
自分が意図してないのに、望んでもないのに辛い状況になるのは本当に悲しいこと。
昔の、身体を奪われた頃の自分と重なる。
……胸がきゅぅと締め付けられる感覚。うん、わたしはこの精霊に共感して、それでいて同情して……とても苦しい気持ちでいっぱいになる。
確かに魔物や精霊などと契約するのは、慎重に決めた方がいい。
契約をするのにも限りはあるし、契約をするってことはその存在と長い間生きていかなければならないということ。
――わたしは、精霊のことをじっと見つめて一つのことを決意した。
「ねぇ、精霊さんはわたしと契約をするのはどう? わたしはね、折角こうして出会ったから一緒に生きていけたら嬉しいなと思うの。わたしと契約をしたら、あなたも回復しやすくなると思うの。それにね、わたし、パパとママと凄く楽しい暮らしをしているからあなたも楽しめるかなって。でもね、あなたがわたしと一緒に居て嫌だなって思ったらどうにでも出来るからね?」
なんだか長々と言葉を口にしてしまった。
それは目の前の精霊に無理強いはしたくなかったから。わたしは精霊がこのまま弱り切るのは嫌だ。元気になってほしい。ただそう思っているから。
「魔導師の、娘と契約?」
少しだけ警戒心がにじんでいるのは、魔導師という存在が自由な存在だと知っているからかもしれない。
なんだろう、理由もなしに魔導師とか、それに連なる存在が精霊を助けるなんて思ってもいないのかも。
わたしも確かなとは思う。
パパもわたしのことを最初は利用しようとしていたもんね。使うって言ってたし。今は娘として可愛がってくれているけれど。
「うん。えっとね、わたしはただあなたと契約出来たら楽しそうだなって思っているんだよ。わたしがあなたと契約して得られるのはそれかなぁ。それに精霊であるあなたと契約を交わしたらきっと出来ることも増えて素敵だと思っているの」
わたしは自分の利益を口にする。こんなことは言わなくてもいいのだけれど、ただ助けたいなってそんな気持ちでいっぱいになっているんだけど、わたしがこうやって何のために精霊と契約をしたいか言わないと納得してくれなさそうだったもん。
「わたしと契約を交わしたら、あなたは元気になれるって利点があるんだよ。だから、ね、契約しよ?」
わたしはにっこりと笑って、そう告げる。
そうすれば精霊は少しだけ悩んだ様子を見せていた。だけど決意したように顔を上げる。
「いいよ。契約しよう」
「やった! あなたのお名前は?」
にこにこしながら問いかけると、名前を教えてくれる。
この精霊はシミーレという名前みたい。
「じゃあ契約しようか」
わたしはそう言って、魔法陣をその場に描く。そして前にパパに教えてもらった契約の方法を試してみる。ユキアとも、こうやって契約を結んだんだよね。
パパとママが黙って見守っていてくれているのはきっと手順が間違っていないからだよね。
「わたし、ベルレナは精霊シミーレと契約を結ぶことを誓います」
「……私、シミーレはベルレナと契約を結ぶことを誓います」
その言葉と共に魔法陣が煌めく。
そしてわたしとシミーレの間に、魔力のつながりが出来たことが分かった。ユキアだけじゃなくて、こうやってまた新たなつながりが増えるのって嬉しいよね。
シミーレとこれから一緒に何が出来るかな? 今は元気になってほしいからと結んだ契約だけれども、これからもっと仲良くなれるかな。
折角こうして契約を結んだのだから、出来れば良い関係を築いていきたいなとそんな風にただ思うのだった。
 




