精霊獣に会ったその後のこと ⑤
地下は暗かった。外は真昼間なのに、こんなに暗いんだなと驚く。わたしはあんまり地下には来たことはないので、こんな感じなんだなと驚く。
だけどパパとママが外に漏れないように魔法を使ってくれているから、すぐに周りの様子が見れるようになった。
わたしでは出来ないような細かい魔力操作が流石だなって思う。
地下は思ったよりも広い。
色んな道に繋がっていて、こんなに広々とした迷路みたいになっているのには何かしらの理由があるのかな?
余程、奥に行ってほしくないとか?
それには精霊も関わっているのかな?
そんなことを考えながらわたしたちは奥へと進んでいく。こういう地下は初めてなので、少しだけ緊張する。でもパパとママが一緒だから、問題ないって分かっているけれどね。
わたしのパパとママって凄いよね! 二人が居ればわたしはきっとどこへだっていけるの。どんな場所だって二人と一緒なら過ごせると思うんだ。
どこで暮らすかも大事だけど、誰と一緒に過ごしているかもとても大事だと思っているの。例えばちょっと合わない人と一緒に暮らしやすいところで過ごすか、パパとママと一緒に少しだけ不便なところで過ごすかだとわたしは絶対に後者を選ぶもの。
それが自分で選んだことなら良いと思っている。でも此処にいる精霊は自分の意思に反して、こんなところにとらわれているんだよね。
確かに近づいているはずなのに……精霊の声が聞こえないの。私はそのことが悲しい気持ちでいっぱいになる。だってそういう風に望んでない状況って悲しいもん。
わたしが神の悪戯と呼ばれる事象によって、あの子が“ベルラ・クイシュイン”として生きるようになったことはわたしにとって欠片も望んでいないことだった。
少なくともあんなことが起こるまでは私は、“ベルラ・クイシュイン”として生きていくつもりだった。その未来が失われるなんて思ってなかった。
でもわたしの身体はあの子が使うことになって、わたしの声は聞こえなくて……。誰一人、わたしじゃないことには気づかなくて。
わたしはパパが見つけてくれたから、今があるけれど……そうじゃなかったら消えていたかもしれないもん。
そういうわたしと同じように望んでない状況になっている精霊が居るなんて、早く助けてあげなきゃという気持ちでいっぱいになる。
「どこにいるのかな」
わたしは思わず呟く。
「ベルレナ、何を焦っているんだ?」
「ベルレナ、大丈夫よ。そんなに切羽詰まった状態ではないわ」
パパとママはわたしの様子に不思議そうに問いかける。
「……わたしが神の悪戯で身体から追い出された時のことを思い出したの。今はね、パパとママがいて、わたしは凄く幸せなの。ベルレナとして生きられて、嬉しいなって思っている。だけどね、あの時……わたしは望んでもいないのに自分の身体をあの子が使うことになって、悲しかったなって思い出したの。精霊も……その時のわたしと同じように悲しんでいるかもって思うと早く自由にしてあげたいなって」
わたしはベルレナで、ベルラ・クイシュインであったのは過去の話。
だけどあの時のことは思い出すと悲しかったなとは思う。パパとママが居るから幸せで、わたしは愛されて生きているけれど……それはわたしがパパに出会えたからなんだ。
だから同じような目に遭う人はいない方が嬉しいってわたしは思う。
だって悲しいよりも、嬉しい方がずっといい。
わたしが神の悪戯にあったことも、精霊が閉じ込められていることも――起こらないならその方がずっといいんだもん。
「ベルレナは優しい子ね。そうね、早く行きましょう」
ママはわたしの言葉を聞いて、優しく笑ってくれた。
それからパパとママと一緒に奥へと進んだ。慌てていてこけそうになった時はパパが支えてくれたの。
そして奥へと到着して――、
「ひっ」
わたしは思わず悲鳴をあげてしまった。
パパがさっと、わたしの視界を遮る。
「パパ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりして声をあげちゃったの!」
「……本当に大丈夫か?」
「うん。大丈夫!!」
わたしがそう言うと、パパは渋々といった様子でわたしにその場の様子を見せてくれる。
そこは所謂実験場のような場所のように見えた。魔物の姿もいくつかあって、その中には死体もある。とても不気味な部屋。
まさか街中にこんな場所があるなんて思いもしなかった。
公にしても問題ないことなら堂々とするはずだよね? ということは此処で行われているのは人に見せたら咎められるようなものなのかな……。
精霊のことも……そういう風に何かに使おうとしているのかもしれない。
「……こんなこと、街中でしているんだね」
「そうだな。……それも物騒な実験だな」
「パパ、此処で何が行われているかわかったの?」
「魔法陣を紐解いたら分かるが、この実験をそのままにしていたらそのうち死人が出るぞ」
「……怖いね。意図的に何か恐ろしいことをしようとしている人がいるってことだよね」
「そうだな。とりあえず精霊を探すか」
「うん」
死人が出るなどと言われて、精霊を捕まえている人は何をしようとしているんだろうって心配になった。
それからわたしはパパとママと、さらに奥に進んでそこに衰弱している精霊の姿を見つけた。
 




