精霊獣に会ったその後のこと ③
3/8 二話目
その声が人のものではないことは――、わたしには感じ取れた。
それはきっとパパとママもそうだったと思う。
「パパ、ママ、これって、精霊の声……?」
こんな街中で精霊の声が聞こえてくることは、まずあまりないことだ。少なくともわたしは精霊たちと交友を持っていた。だけど、こんなところで精霊の、それも切羽詰まったような声が聞こえてくるなんて思っていなかった。
「だろうな。……ちょっと待て、場所を探る」
「ええ。普通なら精霊はこんなところには居ないはずだもの」
パパとママが考え込むような仕草をしている。やっぱりこういう場所で精霊の存在を感じとることはまずない。だからわたしは不思議で、何かしらの困った事態が起こっていたのではないかと心配になる。
精霊の焦ったような声。わたしが知っている精霊たちは、なんだかいつも楽しそうにしていてこんな声は聞いたことがない。
わたしも精霊のことを探ろうとしたけれど、それは上手くいかない。というか、人が多すぎて全然分からなかった!
だけれどもパパとママは周りにどれだけ人がいてもこうやって精霊の気配を探ることが出来るのは流石だと思う。
わたしもいつか、二人みたいに感じ取れるようになれるかなぁとか、そうやって考えるだけで楽しみになる。
「あっちだな」
パパがそう言って、宿とは逆方向を指さす。わたしたちが近づいていない街の一角だ。パパの示す方へとわたしたちは近づいていく。
わたしは近づいてみないと分からなかった。
近づけば近づくほどその声が大きくなったりしないかなと思ったけれど、そんなこともなかった。
本当に近づけているのかな? と少し思いながらも、パパの言うことだから本当のことなんだろうなとは思っている。だってパパだもん。
そして向かった先には、一つの建物がある。
「ここに精霊がいるのかな?」
わたしはじっと、その黄色の壁の建物をじっと見る。入り口は硬く施錠されていて、小さな窓がいくつかついている。人が住まう家といより、何かの倉庫のようにも見える。ただこういう街中にあるのには少しだけ不自然にも思えるかも?
「そうだな。……地下か?」
「そうね。私もそうだと思うわ」
「地下?」
わたしはパパとママの言葉に不思議に思う。
どうやら地下に精霊がいるみたい。でもなんで地下にいるんだろう? わたしはそんなことを疑問に思う。
だってね、精霊っていうのはあんまり地下にいるイメージない。そもそもこういう街中に居るのはおかしいなってそう思う。人が好きでこういう場所にいることはあるかもだけど、それだったらあんな声はあげないだろうし……。でもこれだけ近づいて声が聞こえてこないのはどうしてだろう?
「どうしてさっきだけ声聞こえたんだろう?」
「……そういう状況にあるということだろう」
パパはわたしの言葉にそう言った。
「そういう状況?」
「ああ。なかなか声を上げられない状況だということだ。……この街に居る誰かが、精霊を閉じ込めたのかもな」
「ええ? 精霊ってあんまり見える人いないよね?」
「ああ。そのはずだが……。そもそも何の目的でそういうことをしたんだか。ちょっと中に入るぞ」
パパはそう口にしたかというと、周りに人が居ないのを確認してからわたしたち三人に魔法をかけてくれた。
普段なら……こういう風にどこかに勝手に入るなんてことはしないようにしている。そもそもわたしは出来てもパパとママを止める。
でも……精霊が苦しそうにしているのは状況を確認はしておきたいと思った。
だって大変な状況にあるなら助けられるなら助けたいって思うもん。ただ精霊って基本的にこういう街中でとらえられるようなことはないはずだから。
わたしはそう感じて、なんだか少し不安になる。
何が起こっているのかなって。
パパとママが居てくれるから、きっと何の問題もないだろうって分かっているけれど。
それでもわたしはちょっとだけ精霊が大丈夫かなとか、そういうことばかり考えてしまう。
そんなわたしに気づいたのか、ママが声をかける。
「大丈夫よ、ベルレナ。私たちがどうにでもするから。精霊にとって意図せぬことが起きているのならば放置しておくべきではないもの」
そう言ってママが笑ってくれたのでわたしはほっとした。
――そしてそれからわたし達は、その建物の中へと入った。
扉の施錠はパパが簡単に対処していた。こうやって穏便に侵入するのは、ママ曰くパパが丸くなった証らしい。まぁ、パパからしてみると別にバレようがバレまいがどっちでもいいという感じだろうしね。
騒ぎが収まるまでこの街にこなければいいというそれだけだし。でもパパはわたしがそういうの嫌だなって思っているのを知っているからか、侵入するにしてもこういう風にしてくれている。
中には人は居なかった。
地下って、何処から入るんだろう?




