雪の中、山を歩く ②
「無事に倒せたね!」
《そうだね、流石。ベルレナ》
「それにしても他の場所でも同じようなことが起こったりするのかな?」
わたしは魔物の死体をしまって、その場を綺麗にする。死骸をそのままにしているのは問題だもん。
それにしてもわたしやユキアは戦う力があって、こういう魔物が現れてもどうにでも出来るけれど……、他の場所ではこういうことが起きて命を落としているような人もいるのかな。
それは考えただけで悲しい気持ちにはなる。魔物との戦いで命を落としたら原型が残らなかったりもすると聞くしね。
《起こってはいると思うよ。そういう魔物の対応で騎士とか、冒険者とかはおわれているんじゃないかな》
「あとはニコラドさんとか、魔法師組合の人達もそういう対応しているのかな?」
《していると思うよ》
ニコラドさんにしばらく会えていないのは、もしかしたらこういう風に魔物が活発化している影響なのかもしれない。ニコラドさんは魔法師組合の偉い人って言っていたけれど、なんというかちゃんと現地で対応してそうだもん。
ユキアとそんな会話を交わした後に、またぶらぶらと歩く。
そうしたら、びっくりするものが落ちていた。
「子供だ。……死んでる?」
それは人間の子供だった。……生きていたらすぐに助けようと思っていた。でも既にその命は亡くなっている。綺麗な顔。傷は全然ついてない。でも……死んでいる。
わたしはびっくりして、そして怖くなって、悲しくもなった。
「……どうしてこんなところで」
死ぬって、誰にも会えなくなってしまう悲しいことだ。
それがたった一人で、こういう雪の中でその命を失ってしまうなんて……。
《一人でこういう所に来るとは思えないから、捨てられたのかも》
「捨てる? 子供を?」
わたしはユキアの言葉を聞いて信じられないような気持ちでいっぱいになった。
わたしはパパとママが大好き。家族は大切で、ずっと一緒に居たいって思う。例えば将来、わたしが大人になって子供が出来たらきっとその子を大切にする。
もし恋をして、そして大好きな人との間に出来た子供ならとっても大切な宝物になると思う。
……この子は親に捨てられたのかなって思う。親じゃなかったとしても、自分を育ててくれる人に。
「この子、ちゃんと埋葬しよう」
《うん。そうした方がいいと思う》
もう命を失っているこの子に対して、わたしが出来ることはない。わたしは……死後の世界なんて知らない。ベルラ・クイシュインの身体から追い出された時、わたしは一度死んだようなものだったかもしれないけれど、わたしはずっと漂っていた。
生きてさえいれば、どこかに送り届けるとかも出来たかもなのにとは思った。
わたしは魔法を使ってその子の身体を動かして、花の咲いている下に埋める。冬の、雪が積もる中でも咲く花は目立つ。そこに石でちょっとしたお墓を作っておく。
「よし、これでいいね」
お墓を作り終えた後、わたしはそう呟く。
「それにしても……こういうのはなるべく見たくないね。こういうことがなければいいのに」
だって子供を捨てるなんて誰も幸せにならないことだ。
もしかしたらやむを得ない事情があってそういう選択をしたのかもしれない。わたしはその子供を捨てた人を知らないので、何とも言えない。けれど余程冷たい人ではない限りは、子供を捨てた人も苦しくなるはずだ。
わたしだったらそういう行動をしてしまったら、凄く苦しくなると思う。
《今年は例年より寒いから、それが原因だと思う》
「そっか……」
わたしはこういう少しだけ去年より寒かったり、雪が沢山積もったりしても問題はない。
けれどちょっと魔物が移動してきたり、ちょっと食べ物がとれなかったり――そういうことが原因でこういうことが起こるのかと何とも言えない気持ちになった。
わたしの貯金、寄付でもしてみようかな?
ニコラドさんに相談してやったら、ちゃんとした使われ方をするだろうし。
今年の冬の間だけでも、捨てられそうな子供が少しでも減ったらいいなっていう自己満足でしかないけれど少なくともわたしが手の届く範囲でこういうことはあんまり見たくないなと思うから。
わたしはパパとママと一緒にいるから、感覚が麻痺しがちだけど――普通はこういう小さな環境の変化でも傷ついたり亡くなったりする可能性があるんだもんね。
なんだかこうやってユキアを連れてぶらぶらしているだけでも、色んな気づきとかがある。
「この件もパパとママに言っておくとして、ユキア、もう少しぶらぶらしようか」
《うん》
わたしの言葉にユキアは頷いてくれた。
それからわたしとユキアはしばらくの間、山の中を歩き回るのだった。
屋敷に戻った後は、魔物の事や捨てられていた子供の話をした。パパとママには心配された。捨てられた子供のことを聞いたパパとママは痛ましそうな顔をしていた。




