雪の中、山を歩く ①
さて、精霊獣の元へ会いに行くことは決まったわけだけどそれはもう少し先なので今日はのんびりと過ごす日だ。
冬の季節がやってきて、わたしたちの住んでいる山はすっかり真っ白な世界へと変化している。毎年こうやって雪が積もるのだ。今年はいつもより雪の量が多い。
「パパ、ママ、わたし出かけてくるね!」
だからだろう、わたしがいつものようにそう口にするとママが「気を付けるのよ」と口にしていた。
ユキアと一緒に、わたしは外を歩く。
アイスワンドほどではないけれど、今年の雪は凄い。
気を抜くと、足をとられてしまいそうになったりする。冬の山をもう歩きなれているはずなのに、こんなに大変なのだからびっくりする。きっと他の人だと、こういう山に足を踏み入れたら遭難とかしてしまいそうだと思う。
こういう冬の日って、そういう事故も多いんだって。
アイスワンドのような雪や氷の世界が当たり前の国だとその脅威を皆が知っているから、警戒するものだって聞いた。逆にね、たまにしか大雪が降らなかったりするとその恐ろしさが分からなくて事故にあったりするんだって。
もこもこの、雪が降った時用のブーツを履いているのだけど、それでも歩きにくい。
「あ」
私が歩く後ろで、木の上からどさりっと落ちた雪にユキアが覆われてしまった。
「ユキア、大丈夫?」
慌ててその雪で覆われた箇所に近づき声をかける。すぐさま、ユキアはそこから魔法を使って這い出てきた。
《ちょっと、びっくりしたけど大丈夫》
「なら、良かった。今年の雪、凄いね。これだけ雪が積もっているからいつもと違う光景が見れたりするかな?」
《どうだろ?》
一面の真っ白な世界。
この山にはわたしたち家族しか住んでいないので、歩道などは整えられていない。獣道を歩いていると、雪の中から魔物が飛び出してきてわたしに襲い掛かってきた。
不意打ちで襲われると、少しびっくりする。
だけど気配で分かったから、魔法で倒したよ! この猪のような姿の魔物はね、美味しいの。あとで解体しようと思って一旦収納しておいたよ。
それにね、お肉以外の素材も色んなものを作るのに役立つもん。ただ少しだけ肉付きが悪いように見えるのはやっぱり去年よりも雪が沢山振ってあまり食事にありつけなかったからなのかな。
わたしの住んでいる屋敷は、パパが集めたものが食糧庫の中に大量に入っていて、正直お腹がすいて困るなんてことはない。でも冬の時期だと食べ物にありつけないことってよくある話らしい。
自分で食べることが出来る魔物を狩ったりすればいいのでは? と思ったりもするけれど、魔物を狩ることが出来なければ結局どうしようもないらしい。
わたしの住んでいる山は、魔物がかなりの数生息している。
だから何かあれば幾らでも狩れるけれど、こういう食べられる魔物があまり生息していない地域もあるんだよね。
こういう寒い時期だと果実とかはあんまり実ってなくて、歩いていてそれは残念だなと思ったりもする。
秘密基地にもよった。
雪が屋根の上に積もらないようにはしているけれど、念のため確認は重要だもん。
これでわたしの魔法が上手く行ってなくて、秘密基地が潰れたりしたら悲しいしね。
秘密基地で少しだけのんびりして、また山の中を歩いていく。
「ここの洞窟、凍って中入れないねー」
山の中腹部にある洞窟を覗き込む。そこは入り口に水が張って、それが凍って中には入れなくなっていた。
……中に魔物が居たら、出れなくて困ってる? それとも逆に外から敵である魔物がよってこないから平和なのかな?
興味はあったけれど、氷を壊して中を見るほどではなかったのでやめておいた。
《ベルレナ、麓の方、魔物が寄ってるかも?》
「んー? そうなの?」
ユキアの言葉にそう答えながら、わたしも魔物の所在を感知しようとしてみる。
――確かに、山の麓。わたしがあまり訪れないエリアに、魔物の数が多いみたい。なんでこんなに沢山いるんだろうね?
《もしかしたら食べ物がなくて他の所からやってきたのかもね》
「そういうこともあるか。ちょっと覗いてみようか」
わたしはユキアの言葉を聞いて、麓の方をのぞきにいくことにした。
そこには数え切れないほどの魔物たちの姿があった。あんなに沢山、山の中に入ってこられても困るなぁと思ったのでユキアと一緒に倒すことにした。
真正面から襲い掛かる必要はないので、不意打ちで魔法を使った。その魔物たちは、当然わたしとユキアの存在には気づいていなかったので驚いた様子だった。その後、わたしたちを排除しようとしていたけれど、もう遅かった。
なんだろう、外から来た魔物だからか山に住んでいる魔物達よりは全然弱いなぁと思った。これだとこのまま山に入っていたとしても蹂躙されていたかもね。
屋敷に戻ったらパパとママにこういう魔物が麓に居たよというのはきちんと報告しておこう。




