また、冬がやってくる ②
精霊獣。
それは精霊と魔物の間に居る存在。
それでいて精霊獣を害すると、それがそのまま自然の脅威としてその場所が大変な事態になってしまったりする。
アイスワンドもそういうことになっている。多分、何年も自然の脅威にさらされることになるんだろう。ダニエメさんもそれが分かっているから、あの国の守護者としてアイスワンドをちゃんと守っていこうとしているんだ。
精霊獣に関する本は、あの膨大な書物の中で三冊程度しかなかった。でも珍しいものだからこそ、こうして三冊も揃っていることも珍しいのだろうなと思う。
でも確か学園だと大きな図書館があると聞いているから、精霊獣にかんする情報も見つかったりするのかな。この屋敷には沢山の書物が並んでいて、わたしはパパの娘になった時からずっと沢山の本を読んで、勉強をずっとしてきた。でも図書館ではもっとわたしが読んだことのない本に出会えるだろう。
「ユキア、この本にはこの屋敷からずっと西にある森の奥地に精霊獣の姿を確認出来たってあるよ」
わたしが今手に取っている本に、丁度精霊獣の目撃情報について書かれていた。
そこに書かれているのは、森の中で不思議な生物に出会った時の記録だ。精霊獣は個別で見た目が結構異なるみたい。此処に書かれているのはユキアのような角を持つ存在ではなくて、どちらかというともふもふとした生物だったみたい。
あとは大きさも手のひらサイズで、とても可愛かったって書いてある。だけどそれでも特別な力を持ち合わせているというオーラみたいなのはあったみたいで、だからこそこの遭遇した人は精霊獣を害することなどはしなかったんだって。
わたしはパパと一緒だったから、魔物と精霊獣が違うことが分かって……戦うこととかはなかったけれど、魔物と間違えて攻撃してしまったら大変だもんね。
《そうなの? ふぅん、載っている絵は僕と全然違うね》
「うん、そうだよね。全く違うから、他にどんな精霊獣がいるんだろうってワクワクするね」
《この子に会えるの?》
「うーん、どうだろう? 一か所にそもそもこの子がずっととどまっているか分からないもん」
《それもそうだね。下手に攻撃されないように隠れて生活しているのかもだし》
「珍しい魔物だって、倒されたら大変だもんね。特にこの精霊獣の子だと小さくてどんなところにでも隠れられそうだしね。あとはわたしとユキアみたいに誰かと契約を結んでいるって場合もあるんじゃないかな?」
《精霊獣は基本的に人と契約を結んだりはしてないと思うけど》
「でもユキアも産まれる前はわたしと契約を結ぶとは思ってなかったでしょ?」
《それはそうだけど……》
ユキアは引き継いだ知識から精霊獣は人と契約を結んだりしないと言っているけれど、わたしとユキアだけが例外なわけではないと思うの。
世界中に精霊獣と呼ばれる生物がどれくらいいるかは知らない。魔導師であるパパとママもきっと知らないんじゃないかなって思う。それぐらい精霊獣って貴重な存在で、分からないことが多い生物なんだよね。
「世界中の精霊獣たちとも会ってみたいよね。どんな暮らしをしているのか、これまでどんな知識を手に入れてきたのかとか、そのあたりも知れたら面白そうだしね。これまで人と契約をしたことがあるかとかもしれたら面白いと思うしね」
うん、こうやって考えてみると他の精霊獣たちにあっても面白そうだなと思ってならない。
前に、パパと一緒に聖なる獣と呼ばれる存在に会ったりもしたけれど……ああいう生物ってどのくらいいるんだろう。そういうことを考えると、全部に会いたいなってわたしはそう思う。
《そうだね。精霊獣と契約を結べる人ってなると、ベルレナみたいに凄い子か、変わった子とかなのかな》
「どういう人が精霊獣と関わってきたのかとかも知りたいよね。あと精霊獣に関する本がそもそも少ないっていうなら――わたしがそういう本、書いてみたいな」
《ベルレナ、本を書きたいの?》
「うん、今ね、ちょっと思ったの。ないなら、作ればいいんじゃないかって!」
こうして沢山の本に囲まれていると、わたしは楽しくなる。知らない知識を沢山手に入れることが出来るんだってワクワクする。
でもわたしの知りたいことが全て本にまとまっているわけではきっとないもん。
パパが集めたこれだけの本でもそうなんだ。なら、探してないならわたしがまとめればいいかもって思ったの。
《でも確かに、それ、楽しそうかも》
「ね、わたしもそう思ったの! だから、ちょっと時間かかるかもしれないけれど精霊獣に関する情報を本としてまとめるのもわたしの目標の一つにしようかなって」
わたしにはやりたいことが沢山ある。どうありたいとか、こういうことが出来るようになりたいとか――そういう望みが数え切れないほどあって。言うだけなら簡単で、口にしている目標は少しずつしか叶えられてはないけれど……それでもいつかそれが出来るようになったらきっと楽しいだろうなってわたしは思うの。
「まずは今年の冬に、この本に書いてある精霊獣に会いに行こうね。パパとママに言ってくる!」
わたしはユキアにそう言って、パパとママの元へと向かうのだった。