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幕間 魔導師のパパ ⑥


「パパ、ママ、楽しかったね。フェアラーシェ!」



 ベルレナがにっこりと笑って、俺達に向かってそう告げる。




 俺達がフェアラーシェの国から帰宅してからしばらくが経つ。

 正直言うと魔導師である俺達があの国を訪れることには少なからずのリスクがある。だから俺はベルレナが居なければあの国に足を踏み入れることはなかっただろう。




「そうだな」




 いざ、足を踏み入れると面倒なことばかりが起こるのではないかと思っていたがそれよりも楽しめた。それはベルレナやジャクロナが居たからだろう。



 一人で訪れることになっていたら、きっとそれは――その国に対する報復などだっただろうと想像が出来る。ああいう国は魔導師を特別に思っているからこそ、良かれと思って自分たちの考えが正しいと俺達に接触をしてくる。

 ……話が通じない者がそれなりに多い。

 自分たちのことが正しいと思い込んでいる人は基本的に、他の言うことなど聞かないのだ。





 本当にベルレナに出会う前の俺が、今の俺を見たら驚くだろう。

 それこそおかしな魔法でも使われているのではないかと訝しむだろう。娘を可愛がり、ジャクロナをベルレナの母親にして。そうして誰かと関りながら過ごす日々を、楽しいとさえ思っているのだ。

 ベルレナはひとしきり旅が如何に楽しかったかというのを語った後、眠くなったのか自分の部屋へと戻って行った。




「ディオノレ、あの国に施された魔法についてニコラドにも報告したのでしょう?」



 ベルレナが眠ったからこそ、ジャクロナはこういう話題を俺に振ってきたのだろう。





 フェアラーシェの各地には様々な魔法が施されており、その中には危険を伴う物も多かった。それは魔法を極めようとしている者達が、それぞれ好き勝手に魔導師になりたいと動いているからだろう。

 あの国は魔法大国と呼ばれる場所だからこそ、魔導師の存在を知っている者はそれなりにいる。そうして魔導師の存在を知った者は、自分もそうなりたいと様々なことを行っているらしい。

 ニコラドがあの国を嫌っているのは、“魔導師になるためなら”、“魔法を極めるためなら”とあの国の連中が何を犠牲にしても構わないという考え方を持っているからともいえる。





「ああ。仮にも魔法師組合のある国で、あれだけ危険な魔法が蔓延っているのは何かしら要因があるだろうからな」

「そうね。……あの国の魔法師組合には、ああいうのを放置する無能ばかりなのかしら」

「それか、問題を起こせばニコラドがやってくるかもしれないと思っているかもな」

「……ああ、なるほど。ニコラドはあの国にとっても、魔法師組合にとっても特別だものね」




 ジャクロナは納得したようにそう言った。




 俺やジャクロナはそういう集団の中で生きてはおらず、そういう立場には立っていない。

 だがニコラドはずっと魔法師組合で立場を持って生きている。それこそ魔法師組合のトップに立つことも望まれているだろう。ただ、そういうのを本人が嫌がっているからこそ今の立場だろうが。




 そんなニコラドはフェアラーシェの国にとっては、最も近い存在の魔導師だ。

 魔法師組合で立場を持っており、表舞台にもよく顔を出している。あいつの噂は数え切れないほど各地に残っているだろう。

 だからこそ――ニコラドのことを呼び寄せたいと思っている可能性も高い。




 ニコラドはあの国を苦手としていて、足を踏み入れようとしないから。





「でもそんなことをすれば、逆にニコラドが嫌がるわよね。魔法師組合の連中が総入れ替えになりそうだわ」

「ニコラド自身はどちらにしても行かないだろうな。……弟子の誰かをいかせるぐらいか」

「それでニコラドではなく、弟子が来たら魔法師組合は煩そうね」

「だろうな」

「私たちがまとめた情報を見て、それを残したのが魔導師だと勘づいている可能性もあるわ」

「そのあたりもニコラドには言ってある。だから余計にニコラド自身はフェアラーシェには行かないだろう」





 俺達の報告を見て、フェアラーシェの魔法師組合が俺達のことを勘づいている可能性はある。今頃、躍起になって俺達を探しているかもしれない。そう思うとさっさと戻ってきて良かったとは思う。





「ニコラドも大変ね」

「そうだな。……ところで、ジャクロナは冬は何処に行きたい?」

「もう冬の話?」

「ああ。去年はアイスワンドに行ったが、今年は違う場所に行くことになるだろう」

「そうね。去年のこともあるもの。……それにしてもあれからもうすぐ一年もたつのね。早いものだわ」




 ジャクロナはそう言って、穏やかな笑みを浮かべている。

 こうしてジャクロナと二人で話すのは嫌いではない。以前よりも挙動不審さが減り、ジャクロナは自然体だ。





「考えておくわ。ベルレナにも意見を聞かないといけないしね」

「ああ」

「ディオノレは何処に行きたいの?」

「……考えておこう」




 特に何処に行きたいかなどは思い浮かばない。ベルレナと、そしてジャクロナも共に行くならきっとどこでも問題ないだろうとそうは思っている。



 ただ期待したように見つめられたので、俺の方でも考えておくことにする。ベルレナも、俺の行きたい場所を聞きたがるだろうしな。


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