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魔法大国へと向かう ⑪

「……この国が災厄に見舞われた時に、勝てるように、そして逃げられるようにだとは思うが。確かに出来れば使われない方がいい魔法だ」




 パパはそう言いながら、何とも言えない表情をする。



 時計台に組み込まれている魔法は、決して優しいものではない。そんな優しくない魔法をわざわざ組み込むのはどうしてだろうか?

 わたしは魔法という力を、優しい使い方を出来れば一番いいなとそう思っている。けれどそういう人ばかりではないのだとこうして外の世界に赴くと余計に実感する。




「勝てるように?」

「ああ。……この時計台に組み込まれているのは、人を原料にした魔法だからな。人自体を糧にして、強大な魔法を行使する。そうまでして生き延びたいものかと疑問だな」

「うん。怖いものだね。それに……全然かっこよくない」




 わたしにとって魔法って、凄いものなんだ。綺麗で、素敵な可能性を秘めていて――。それでいて魔法を使うパパとママはとってもかっこよくて。

 わたしにとって憧れ。





「ベルレナはかっこよくないことが気になるの?」




 おかしそうにママが笑ってわたしに問いかける。




「うん。だって魔法大国なんてこの国は言われているのに、こんなにかっこ悪い使い方をしているなんてちょっとがっかりしちゃった」




 わたしたちの会話は周りに聞こえないようにパパとママが魔法を使ってくれている。だからわたしは素直に自分の気持ちを口にする。

 きっとわたしの言葉はこの国の人達に聞かれたら、怒らせてしまうだろう。

 だけど、ちょっとがっかりしちゃった。





「誰かを悲しませるような魔法の使い方って、わたしは好きじゃないなって思うの。人によって魔法を使えるか使えないかの才能の差はあると思うけれど、それでも使い方を工夫したり、魔法具を使ったりしたら自分たちが出来ることって増えていくでしょ。わたしね、パパとママみたいに凄い魔法をどんどん使える人も凄いな、かっこいいなって思うよ。でも技術部門で見たようにああいうものを使って工夫している人たちもいいなって思うの。この時計台に組み込まれている魔法は……自分たちの力でどうにかするっていうより、人を犠牲にして使われるものだから嫌だなって。もちろん、本当に危機的状況でなければ使われないものだとは思うけれど……」




 そもそもそれでもそういう魔法が当たり前のように存在していることが嫌だなと思う。




 この国で暮らす人たちはそういう魔法が存在していることもきっと知らないだろう。知ったらどんなことが起こるだろう。

 もしかしたら大きな内乱のようなものでも起こるのかもしれない。

 少なくともわたしなら……そういう魔法が使われるかもと思うと嫌だもん。





「そうね。私もあんまり好みじゃないわ」

「俺もそうだな」

「……うん。わたしはこの国に深く関わる気はなくて、だからあの時計台の魔法をどうにかする気はない。けれど、なんかんーってなっちゃうね」




 責任が持てないのならば、嫌だからという理由で何かを壊したりはしない方がいい。例えばわたしたちはあの時計台の魔法をどうにでもすることが出来る。パパとママなんて一瞬だろう。でもわたしたちはこの国に深く関わっていくつもりはない。

 それに今の段階ではあの魔法は使われていないのだ。

 だから一旦、放っておくことにはする。ただもちろんなんとも言えない気持ちにはなるけれど。





「ねぇ、パパ。ママ。この国ではああいう魔法が他にも組み込まれていたりするの?」

「探してみればあると思うが」

「そうね。私も一つだけだとは思えないわ」




 ……パパとママが言うにはこういう恐ろしい魔法が、この国では少なからずいくつも組み込まれているらしい。

 ニコラドさんがこの国を嫌がっていたのもそういう魔法を知っていたからというのもあるのかな。





 それにこういう時計台などに組み込まれているものに関しては本当に大変な時にしか使われないかもしれないけれど、もしかしたらこの国のどこかでは――この魔法の仕組みを使って悪いことが行われているかもしれない。

 ただそれはあくまで想像でしかないし、正直悪い人というのはどこにでもいるだろうから……この国に限った話ではないかもしれないけれど。





「わたし、こういう魔法を自分に使われた時にちゃんと対応出来るようになりたいな。パパが守護石をくれているし、わたしに何かあればパパとママが飛んできてくれるって知っているけれど、自分でもどうにか出来るようになった方がきっといいもん」




 例えばわたし自身に、それ以外にも親しくしている人たちにこういう魔法が使われたら? その魔法の糧にされそうになったら?

 どれだけ凄い魔法が作られようとも、きっと糧になってしまった人はただではすまない。

 わたしはそういう魔法を向けられた時に、自分の手でどうにか出来るようになりたいと思った。





「そうだな。折角だから対処法をこの機会に学ぶのもいいだろう」

「こういう魔法は危険だから、近づかないのが一番だけどね。でもベルレナがそういう魔法と遭遇した時にどうにか出来るならそれにこしたことはないわ」



 パパとママはそう言って笑ってくれる。




 二人ともこういう危険な魔法についての知識もわたしにちゃんと教えてくれる。わたしなら悪用しないって思ってくれているからだと思う。

 危険なことから引き離すのも親の愛だとは思うけれど、わたしはパパとママのこういう愛情が好きだなっていつも思う。



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