魔法大国へと向かう ④
女の子のお母さんを探すために私たちは歩き回る。その間に追手に見つからないようにはパパとママが魔法を使ってくれていた。近くを通っても気づかないというのだから、本当に凄いなと思う。
「ここが魔法大国であるフェアラーシェだからこそ、あの子供みたいに魔力が多い迷子というのは絶好の的だろう。あのまま放っておけばさっきの連中が連れて行ったはずだ。それでそのまま囲っただろう」
「……お母さんと会えないようにするってこと?」
「おそらくそうだろうな。周りが手を差し伸べなかったのも、特権階級である魔法使いたちが欲しがっているのを知っているからだろう」
「あえて助けずにそのまま魔法使いたちに連れて行かせようってしてたってこと……? なんか、怖い国だね……」
わたしが感じたのは、怖いというそういう感情だった。
わたしは神の悪戯が起こる前、公爵家の娘だった。そしてパパの娘になってからはわたしは守られて生きている。今も昔もわたしが誰かに攫われることがあればきっとすぐに助けてもらえただろう。家族は一緒に居るのが当たり前で、迷子が居たら家族の元へ連れて行くこと。それも普通なら当たり前のことだ。
……でもこの国においてはそうではないのだ。平民の迷子ならば特権階級の魔法使いに攫われても問題がないとそういう常識なのだろうか? それともその方が幸せだと本気で思っているのか。……ただただ魔法使いたちを敵に回したくないからと言う理由でそうしているのか。
どちらにしても正直、そういうこの国の実情を聞いて嫌な気持ちになってしまう。
わたしが大会を見にきたいからってこの国に訪れると決めたのに、事前にどんな国か聞いていたのになんだかショックだった。
「ベルレナ、そんな顔をするな。今回はベルレナがあの子供を見つけたからこそ、家族に会わせられるんだから」
「うん」
パパの言葉にわたしは頷いて、そのまま女の子のお母さんを探すことに集中することにした。
「あ、お母さん!!」
そうして歩いていると勢いよく女の子が声をあげた。
「クレマガリ!!」
女の子――クレマガリの声に反応して、一人の女性がこちらに近づいてくる。そしてそのままクレマガリの体をぎゅっと抱きしめている。
そしてその女性はわたしたちのことを警戒するように見る。ここがどういう国か分かっていて、だからこそ余計にクレマガリが行方不明になったことで肝を冷やしていたのではないかと思う。それはこの子を本当に心配していたからだと思う。娘が居なくなればこんな風に心配するのは当然のことだ。
寧ろこの国の、あの子が虹瞳を持つからといって手を差し伸べない方がなんだかなぁと思う。それがこの国の当たり前だというのならば仕方がないけれど……。
「その子供は魔法使い共に連れて行かれるところだった。目を離さない方がいい」
パパはその女性に対して、淡々とそう告げる。
わたしが望んだからとはいえこうやってなんだかんだクレマガリのことを保護して、それでいて母親である女性に目を離さない方がいいというパパはやっぱり優しいと思う。クレマガリのお母さんもそのことは分かったのだろう。
「クレマガリを保護してくださりありがとうございます。この国でこの子が特別な存在だと知っていたのに、目を離してしまったのは私の落ち度です。もしこの国に捕まってしまえば取り戻すのが大変だったと思いますから感謝します。何かお礼を与えたいと思うのですが、望みはありますか?」
「そんなものはない。娘が気にしていたから保護しただけだ」
クレマガリのお母さんの言葉に不思議に思う。
なんだかもし魔法使いにクレマガリが捕まっても取り戻せると言っているようだったから。わたしはクレマガリのことを平民の子供だと思っていた。多分、周りで遠巻きに見ていた人たちだってそうだと思う。
でも実際は違うのかもしれない。
だってただの平民の子供であるのならば、一度国にとらわれてしまえば取り戻すことは本当に難しいのだから。
「そうですか。しかしお礼は――」
「不要だ。ベルレナ、ジャクロナ。行くぞ」
パパはお礼をしたいというその女性の申し出に頷かなかった。
それには考えがあるんだろうなと思うから、わたしは素直に頷いた。ママも特にパパの決定に異論はないみたいだしね。
クレマガリには「ありがとう!」とお礼を言われたので、それには手を振り返しておいた。
もう会うことはないかもしれないけれど、ひとまずお母さんにあえてよかったなとそういう気持ちでいっぱいである。
「ねぇ、パパ。クレマガリはよい所の子供なのかな?」
「どうしてそう思ったんだ?」
「だってさっき、クレマガリのお母さんは取り戻すのが大変だったと思うって言ってたよ。普通の平民なら多分取り戻せないってなると思うもん」
わたしがパパからの質問に答えたら、パパは笑った。
「そうだな。あれは多分、この国の隣国の貴族だろう」
「そうなの?」
「ああ。小さいが国旗が描かれていた。それに所作も貴族だったしな」
パパにそう言われてそうなんだと驚く。
先ほどの短い間でパパはそれだけの情報をちゃんと確認していたんだなと思うと凄い! と思う。
「パパ、凄い! ママは気づいてた?」
「私は貴族であるぐらいしか分かってないわよ」
「そうなんだ。じゃあパパはやっぱり凄いね」
「ええ。ディオノレは凄いのよ」
わたしの言葉にママがそう言って笑ってくれて、嬉しくなった。