魔法大国へと向かう ③
その小さな女の子を連れて、公園のベンチに座る。あまり周りから注目を浴びないように端っこにきているつもりなのだけど、道行く人たちにちらちら視線を向けられたりしている。
パパはその瞳が原因かもしれないと言っていたけれど、どうしてなんだろう?
わたしはそんなことを考えながら、パパに問いかける。
「ねぇ、パパ。あの瞳は確かに珍しいと思うけれど、それでどうして周りが見て見ぬふりをするの?」
女の子の耳に入らないようにこそこそとパパに問いかける。
だって本人の耳に入らない方がいいことかもしれないと思ったから。
ちなみに女の子のことはママが気を引いてくれている。
「虹瞳と呼ばれるその瞳は、様々な逸話を持つ。一般的にその瞳を持つものは魔力が多い」
「そうなの?」
「ああ。自分の魔力が大きすぎるせいで制御がきかずに幼くしてその命を落とすことも多々ある。それでいてある魔物にも狙われやすい。地域によっては不吉な瞳だというところもあれば、まるで神からの贈り物だとでもいうように崇めたりもする」
その変化していく瞳は、とても珍しいもののようだ。
パパも少し興味深そうに見ているのは、研究意欲でも刺激されているのだろうか? それにしても地域によってその瞳の捉え方が違うだなんて……結構大変なことだと思う。
場所によって考え方も常識も違うから、ある意味そういうことは当たり前に起こることなのかもしれないけれど……。
この国でこれだけこの子が放置されていたのは、不吉だと思われていたからなのかな。
でもどれだけ言い伝えなどがあったとしても、小さな子供が泣いているのに誰一人として手を差し伸べない状況って結構おかしなことだと思う。
「この国にとってはそれだけ関わりたくないと思われているってこと?」
「どうだろうな……。そうじゃなくてもしかしたら――」
パパがわたしの問いかけに言葉を発しようとした時、その場に慌ただしい足音が聞こえてくる。
いつの間にかわたしたちの周りに何人かのローブを纏った人たちが現れた。わたしは気づいていなかったけれど、パパとママは彼らがやってきても顔色一つ変えなかった。多分、気づいていたのだと思う。
女の子がびくりと身体を震わせる。
わたしはその子を庇うように、ローブを纏った人たちの前に立つ。
そのローブを纏った人たちは、なんだか独特の雰囲気を持っている。
多分、魔法使いの人たち。でもどうしてわざわざこちらに来るのだろう? パパとママが魔導師だというのは知られていないと思う。二人ともちゃんと自分の力を隠しているから。わたしだってそこまで目立つことはしていないはず……。
となるとわたしたち目当てというより、この女の子目当て?
……そう考えると少しだけ嫌な予感がしてぞわぞわしてしまった。
「その子をこちらに渡してもらえるか?」
それは疑問の言葉だったけれども、それ以上に決定事項ともいえるような強い口調だった。
まるでわたしたちがその子を彼らへと引き渡すのが当然だとでもいう風に。
うーん、なんていうか昔を思い出しちゃう。わたしが公爵令嬢として生きていた日々のこと。その頃のわたしは周りに当たり前みたいに色々と言っていた気がする。
そう考えるとそういう風に目の前の人たちにとってはわたしたちが女の子を引き渡すのは当たり前なのだろうな。
「この人たち知り合い?」
わたしは女の子にそう問いかける。
女の子はふるふると首を振る。
女の子が知らない人が、連れて行こうとしているって怖い状況だと思う。
誘拐とかと何も変わらないと思う。わたしは誘拐された経験とかはないけれど、今はそういう現場に遭遇してしまっているってことだよね……?
「この子はあなたたちのことを知らないと言ってるので、渡せないです」
わたしがまっすぐにその人たちを見て言ったら、急に怖い顔をされた。
そんな怖い顔を向けられたことなんてわたしにはなかったので、ちょっとびくっとしてしまう。でもパパとママが一緒に居るからすぐにその気持ちもなくなったけれど。
「いいからわた――」
そのローブの男が何かをしようとしたとき、パパが彼らに何か魔法を使ったらしい。
自分が何をされたのか分からないうちに、その人たちは固まった。
「ベルレナ、違う場所に移動するぞ」
「うん」
パパの言葉にわたしは頷く。
そしてわたしたちは女の子を連れてその場を後にするのだった。
ちなみにちゃんと、周りがパパとママが魔導師だって分からないように魔法で対応したみたい。
「あの人たち、どうしてこの子を連れて行こうとしていたんだろう……?」
「虹瞳だからだろうな」
そういう瞳を持っているからといって、そんな風に狙われてしまうなんて本当に大変だと思う。
……どうにかこの子のお母さんと再会させてあげたいな。
すぐに見つかったらいいけれど。




