杖を使ってみたり、秋の近づきを感じたり ⑤
「うえ、ディオノレたちあの国に行くのか?」
パパと一緒に秋の予定を立てた後、ニコラドさんがやってきた。
わたしたちからその話を聞いたニコラドさんは、嫌そうな顔をする。ニコラドさんにとってもその国は面倒みたい。
「魔法の大会見に行ったりしたいなって。パパから話を聞いているから、長居する気はないよ!」
「そうか。まぁ、どういう国か分かった上で行くなら問題ないな。でも気をつけろよ?」
「うん。ニコラドさんも苦手なの?」
「まぁ……、あそこの連中は面倒だからなぁ。あの国にも魔法師組合はあるんだが、組合の上層部が俺が魔導師だって知っているから煩いんだよ」
「そうなんだ……」
パパは魔導師だと知られたらややこしいことになると言っていた。ニコラドさんは魔導師だと知られている中で、その国と関わったりしなければならないとなると……本当に大変だと思う。
ニコラドさんはそういう苦労も踏まえた上で、魔法師組合で働いているんだなと思った。
パパとママは人と関わることも、そういう苦労もしたくないと思っているからこそ、こういう場所で暮らしている。でもニコラドさんは人と関わって生きていくことを選んだ魔導師なんだなって思う。
「だから俺はあの国には必要以上には行く気はない。ベルレナも気をつけろよ? 魔導師の娘とか、あいつらにとっては格好の餌みたいなものだからなぁ」
「パパが魔導師は神様みたいに崇められるって言ってたけれど、そんな感じなの?」
「……そうだなぁ。俺が行くってなると、国をあげて出迎えようとするだろうな。絶対に行きたくない。頼めばそれはやめてくれるかもだろうが、絶対俺の望まない方向で歓迎してくるだろうし」
「そうなの?」
「ああ。俺の妻はもう亡くなっている話はしただろう。ああいう連中は優秀な人材は残すべきっていう考え方なんだよ。あの国は国の上層部に食い込んでいる奴ほど妻や子が多い。それは魔法の才能のある子供を産むというその目的のためだ。だから俺が行ったら、女をあてがわれそうになるだろうな」
ニコラドさんはそう言いながら遠い目である。
ニコラドさんは一部には魔導師だって知られている。そして表に出て、いろんな人と関わっている。
だからこそ大々的にその国を訪れるとそれだけの影響力があるらしい。
わたしが知っているニコラドさんは、優しくて気の良いお兄さんで、パパのお友達。杖の材料を集めに行ったときに、ニコラドさんの違う一面は感じたけれど――ニコラドさんって魔導師ニコラドとして前に立っている時はまた違う雰囲気なんだろうなって思った。
それにしてもニコラドさんって奥さんのことを大切にしていたんだろうな。
そうじゃなかったら別の奥さんが出来たりしていただろうから。でも独りぼっちは寂しいと思うから、ニコラドさんは奥さんにしたいって人が出来たら二度目の結婚をするのかな?
「なんか、ちょっと怖い考え方だね……。わたし、魔法を色々使えるっていうのをばれないようにしないとね」
「そうだな。捕まったら結婚相手勝手に決められて、祭り上げられたりする可能性が……ってディオノレ睨むな! あの国で魔法の才能がある少女はそういう目に遭うことがあるんだよ! 魔法師組合の方でも目を光らせて、問題のある連中に関してはどうにかしているけれど……まぁ、そういう国だからディオノレとジャクロナから離れないようにな」
……そういう大変な目に遭っている人もいるらしい。うーん、物騒だと思う。
本人たちが望んでその状況に居るならともかくそうでないのならば、国自体の問題だろうけれどなんだかなぁって思う。
わたしはパパとママが守ってくれると分かっているから、そういう国に行っても問題はないと思うけれど……例えばたまたま旅行でその国を訪れて、魔法の才能があることが発覚して……それでそのまま親元から引き離されるなんて悲しいことになる可能性もあるのだろうか?
「ベルレナ、どうした? 怖くなったか? 怖がらせてごめんな? でも一応、注意はしていた方がいいから」
「ううん。わたしはね、パパとママが一緒だからそういう怖いことが多分ないんだって知っているよ。でもね、国相手だとどうしようもなくて、嫌々親から離されちゃうことってあるのかなって。なんだかそれは悲しいことだなって……」
わたしがそう言ったら、ニコラドさんは笑った。
「そういうのを無くすためにも目を光らせているんだ。昔はもっとそういうことが横行していたが、今はその件数も少なくなっているし、親からの通報でその子を助け出すってこともやっている。だから、大丈夫だ」
「そっか……なら、良かった」
そういうことが少なくなっていると聞いてほっとする。
完全に無くなっているわけではないといった言い方だけど、それでもそういう家族から離れることになるのはとっても苦しくて悲しいことだから。
――わたしは自分がベルラ・クイシュインじゃなくなった日のことを覚えている。わたしが家族を失った日を覚えている。
だから、余計にそういう悲しいことがなければいいなとそう思うのだ。




