杖を使ってみたり、秋の近づきを感じたり ④
「嫌な思いというか、あそこの国は魔法が第一だからこそ魔導師に対して特別な思い入れがあるんだ」
「魔導師に対して特別な思い入れ? そこの人たちは魔導師のことを知っているの?」
パパの言葉にわたしはそう言って問いかける。
だって普通の人は魔導師の存在を知らない人ばかりだ。わたしだってこうやってパパの娘になる前は魔導師という凄い人が存在していることなんて知らなかった。
だからパパの言った言葉に驚いた。
「ああ。あの国は魔法を追求する者が多い。だから魔導師の存在にも行きついている。あの国の筆頭魔法師なんかは魔導師になりたがっている。ただなりたがったからといってなれるものでもない」
「へぇ。魔導師になりたい人たちの集まりだということ? それはそれで凄いね」
「魔導師は必至こいてなるものではない。というか、気づいたらそうなっていた者が多い。俺も、ニコラドも、そうだった。魔導師になることだけを目的に行動していればそれに至ることはないだろうな」
「魔導師になること自体を目的にしているってこと?」
「ああ。だからそのために手段を択ばない奴もいる。その結果、魔法師組合から指名手配にされた奴も過去にはいたからな」
魔導師。
わたしはパパやママ、それにニコラドさんという身近に魔導師がいる。でもそこで暮らしている人たちにとって魔導師と言う存在はきっと近くにはいないのだと思う。
なりたいと焦がれて、その結果、取り返しにつかないことをする人もいるってこと? やりたいことをやるために頑張ることって素敵なことだけど、組合から指名手配されるぐらいのことってきっと犯罪を行ったりしてしまったってことだよね?
「そうなんだ……。手段を択ばない人が多いんだね」
「多いというか、時々そういう奴は出てくる。それで、その国は魔導師を特別視しているからこそ神のように崇めていたりする」
「パパ、そこの人たちにとって神様なの?」
「奴らにとって魔導師はそういうものだ。だから、魔導師だと知られたら担ぎ上げようとしてくるだろう。そういう国だから俺もあまり近づこうとしていなかったんだ」
パパの言葉に納得する。
パパはそういう風に周りから接触されることが嫌いな人だ。だからこういう山の上にひっそりと住んで、暮らしている。
パパが人に囲まれたいとか、偉い人になりたいとかそういうことを思っている人だったらそもそもこんなところで暮らしていないのだ。やろうと思えばそういう立場にパパはすぐになれるだろう。
それだけパパは力を持っていて、凄いから。
そういうパパだからこそ、魔導師のことを神様のように崇めている国に足を運ぼうと思っていなかったんだろうな。
「だったらやっぱり行かない方がいい?」
わたしは心配になってそう問いかける。だってパパに嫌な気持ちにはなってほしくないってそう思うもん。わたしは行きたい場所には行きたいって思うけれど、でもパパを困らせるなら行かなくてもいいかなと思うの。
「いや、ベルレナが行きたいのなら行くこと自体は構わない。ただベルレナも俺とジャクロナの娘だと発覚したら囲おうとする連中もいるかもしれない」
「わたしは魔導師じゃないよ?」
「だけど、俺とジャクロナの娘だろう。それだけであいつらにとっては特別なはずだ。そもそも魔導師の娘でなくても、魔法の才能がある子供というだけで目をつけられる可能性はある」
「そうなんだ……」
「ああ。ベルレナの見たいといっていた大会もあの国が魔法の才能がある子供を発掘するためのものでもあるわけだ。だから大体、入賞者は国に囲われることが多い。それを目指して参加するのならばいいが、そうではないなら参加すべきではない」
「わたしが魔法を使えるっていうのを知られないようにした方がいいってことだよね」
「そうだな。それが一番いい。ベルレナがちゃんと俺とジャクロナの傍を離れずに、言いつけを守れるなら見に行くのは構わない」
「他の街みたいに一人でぶらつかない方がいいってことだよね! うん、パパとママの傍を離れないようにするから行きたいな」
他の街だと最近は一人でぶらつくことも多かった。パパとママを二人きりにしたいなとか思っていたからというのもあるけれど。
それにしてもパパはやっぱりわたしに対して過保護だよね。大切にしてもらえているって嬉しくなるけれど!
わたしはパパとママと一緒に過ごすのも大好きだから、離れないでいればいいだけなら全然問題ないもん。
「なら、行くか」
「うん!! えっと、あんまり長居はしない方が安全かな?」
「そうだな。なるべく短期間の方がいい」
「分かった。じゃあ、わたし、大会に合わせて何日ぐらい行くかとかちょっと計画建てるね!!」
わたしがそう言ったらパパも笑ってくれた。
そういうわけで今年の秋は魔法の大会を見に行くことになった。




