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夏の日、ママの計画で旅行に出かける ⑮

 長い時間、ママの案内してくれた場所で過ごしていたというのもあって宿に戻ったのは大分遅くなってからだった。



 街で外食をしてから戻ったのだけど……、



「これはこれは、お嬢様、使い魔には興味がありませんかな?」


 宿に戻るとそんなことを言いながら寄ってくる商人の姿があった。




 貴族の子供たちが使い魔を飼うことが流行っているから、この宿に泊まっている人たちが利用していることも知っていた。使い魔を売っている商人にあわないようにしていたのに、まさか待ち伏せみたいな真似をされると思わなかったので思わずパパの後ろに隠れる。

 だって、こんな風に望んでないのに待ち伏せされるのってちょっとびっくりするもん。

 それにね、その商人の目が獲物を見つけたような感じでちょっと怖い雰囲気だったの。





「娘が怖がっている。去れ」

「まぁまぁ、そう言わずに。可愛らしいお嬢様にぴったりの使い魔が沢山いますよ」




 そう言いながらその商人は、売り物である魔物たちに視線を移す。そして檻の中の魔物を見せてくる。



 近くで見たら、この子たちの環境がよくないことは分かった。使い魔を売っている商人によって違うのかもしれないけれど、少なくとも目の前のこの商人は捕まえた魔物たちに対してよくはしてなさそうだ。

 もしかしたら買い手の前だと無理して元気よく鳴くように教育でもされているのかもしれない。それかこの商人のもとからどうしても離れたくて仕方がないのか。



 ……どちらにしてもわたしは、使い魔を買おうとは少なくとも思わない。なんらかの縁があって契約を結ぶことはあるかもしれないけれど。うん、だから幾ら説明をされても心惹かれることはない。

 というか、わたしにはユキアがいるしね。





「要らない。パパ、ママ、部屋に戻ろう」




 わたしがそう言ってパパとママの手を引いて、部屋へと戻ることを提案する。商人はわたしたちに色々声をかけていたけれど無視した。あと宿の従業員の人には、「ああいう商人がこちらに話しかけてこないようにしてほしい」とは言っておいた。

 ……ただ使い魔を買いたい人はこの宿の中に多いので、宿に入れないようにすることは難しいとは言われた。わたしたち家族には話しかけないようにとは、宿から言ってくれるみたいだけど。

 それにしても楽しかった後に、予想外の遭遇があるとちょっとびっくりするね。




 宿の部屋に戻ってから一息をつく。





「使い魔を欲しがっている人に対して営業するのは問題ないけれど、特に望んでもない人相手にああも営業してくるなんて商人として問題だわ」

「ね。わたしもそう思う。お客さんの言うことをなんでもぽんぽん聞くのは違うとは思うけれど、ああいう風に嫌がる人に押し売りするのどうかと思う」



 ママの言葉にわたしも頷く。



「それに物じゃなくて、生きている魔物を売るわけだから……ああいう押し売りは駄目だよ。生き物を使い魔にするってことはそれだけ責任を負うことだと思うもん。ああいう押し売りで使い魔契約結ばれたら、魔物にとっても良いこと少なそう」

「そうね。それに簡単に使い魔契約を結んで、きちんと世話をせずに殺してしまったり、要らないと捨ててしまう貴族も多いかもしれないわ。権力者の間で何かを飼うことが流行る場合は、結構そういう悲しいことも多いのよ」

「……あの子たちが、ちゃんと責任をもって可愛がってくれて、大切にしてくれる人に出会えたらいいね」




 捕まって、商品として売られて。だからあの魔物たちには自由がない。これからどうなるかは、買っていく人次第だと思う。

 それにしても流行っているからって買うのはちょっと、問題が起きそうな感じだよね。





「あとあの商人は、売り物に対して誠実ではないわ」

「うん。わたしもそれは思った。だってあの魔物たち、あんまり状態よくないよね? 魔物のことをあんまり見たことのない子たちはそういう状態の悪さに気づかないかもしれないけれど……、具合が悪そうな子もいたしちょっと心配だなって思うの」

「そうね。それに買われるために必死にしている子もいたから、いざ買われた後に思ったのと違うとなったりすることもあるかもしれないわね」

「使い魔を売っている商人が全部ああだとは思わないけれど、ああいう人を見るとちょっと何とも言えない気持ちになっちゃう」





 売り物である魔物たちの状態が悪いことって、商人にとってもお客さんにとっても悪い事しかないと思うのだけどなぁ。



 ああいう商人の人って、あとから文句を言われたりすることを考えたりしないのかな? と思ったのだけど、ママが言うにはああいう商人は「売るだけ売って姿をくらませたりする」らしい。ちょっと悪い商人なのかもしれない。




「気になるなら組合に報告しましょう」




 商人の組合などもあるので、その組合に報告しておけば対応してくれるかもしれないとママから聞いた。今は夜なので、明日になったら売り物の魔物たちの状態が悪そうだったことを報告することになった。



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