夏の日、ママの計画で旅行に出かける ⑬
「いってきまーす」
宿の従業員の人たちに、そう言ってわたしたち家族は宿から出る。
まだ引き続きこの宿には泊まるから、「いってきます」と言ったの。そのホテルの人たちに笑顔で送り出されて、わたしはパパとママと手を繋いで歩く。
「街の外にまずは行きましょう」
ママが連れて行ってくれようとしている場所は街の外みたい。
今日の私は動きやすいズボンをはいているの。でも可愛い薄ピンクのものだよ。上着もね、前にお店で買ったシャツ。可愛い柄のものだときているだけでワクワクする。
「ふんふんふ~ん」
街の外に出て、わたしは鼻歌を歌ってしまう。
流石に人が沢山いるところでは歌いにくいけれど、パパとママとわたししかいないと歌っていても気にならないよね。
わたしの口ずさむものって、パパやママから教えてもらったものや本で知ったものとかなんだ。
歌ってね、色んな意味があるんだよ。その意味を知るのも楽しいよね。
「ディオノレ、ベルレナ。こっちよ」
それは海沿いの絶壁。荒れ狂う波が見えて、落ちたら怖いなと思った。魔法が使えるから、どうにでも出来るけれど、ちょっと怯んじゃうよね。
「じゃあ、行くわよ」
ママがそう言って、魔法を行使する。そうすればわたしたちの身体が浮いた。
これからどこに連れて行ってもらえるのかな? わたしはそんな気持ちでいっぱいで笑みがこぼれる。
海の上を浮いて、しばらくして――誰もいないような小さな小島に辿り着いた。その場所は遠くから見ても何もないように見えた。なのにママが何かしたかと思えば目の前にその小さな小島が出てきたのでわたしは驚いた。
「ママ、此処って、他からは見つけにくい?」
「そうね。精霊たちがたまに遊んでいるお気に入りの場所なのよ。自然の魔力で周りから見えにくくなっている場所なの。誰かが意図してやったわけではなくて、自然に存在する魔力がそういう摩訶不思議な作用をすることがあるの。面白いでしょう?」
ママは本当に魔法が好きなんだなと改めて思う。
というか、パパもママも魔法を愛しているからこそ魔導師なんてものになっているんだもん。好きなものについて語るのって凄く素敵だよね。
わたし、パパとママが楽しそうに魔法のことを語っているの見るの好き。
それにしても今は精霊たちはいないみたいだけど、精霊のお気に入りの場所かぁ。お気に入りの魔力があるとか?
小島についてから、海に面した場所にある洞窟に連れて行ってもらった。海から直接つながっていて、海面がキラキラしていて、見ているだけで心が洗われるようなそんな気持ちになる。
「パパ、ママ、凄くキラキラしてるね! なんだか綺麗な結晶がいくつかあるし、面白い!」
光に反射して煌めく、美しい水色の結晶。水が固まって出来たものとかそういうものなのかなぁ? 全然分からないけれど、綺麗だと思う。
わたしは綺麗なものが大好きだから、こういう洞窟内の道を歩いているだけでも楽しい。
奥へ奥へと進んでいくと、その結晶は徐々に多くなっていく。魔力も含まれているように見えるその結晶はなんだか不思議と目が惹かれる。
「ベルレナ、こういう結晶には中毒性もあるから気をつけろ」
「あんまり見つめすぎると夢中になっちゃうってこと?」
「まぁ、そうだな。あとこの結晶一つで財産を築けるようなものだから、あんまり人に言わない方がいい」
「うん」
パパの言葉にわたしは頷く。
パパとママと一緒に過ごしていると、びっくりするような珍しいものと沢山出会うことが出来る。
わたしは簡単にパパとママに連れて行ってもらっている場所って、どこも珍しくて、貴重なものばかりなんだなって思った。
「わぁ」
行き止まりの所に、大きな結晶があった。
今まで道中で見てきたものよりもずっと大きなもの。
長い間蓄積して、これだけの大きさになったのだろうなと思うと、凄く不思議な気持ちになった。
「凄く大きいね。これだけ大きなものって中々ないよ!」
「ええ。そうね。でもここの面白い所はそれだけじゃないわよ」
「そうなの?」
「ええ。しばらく待つことになるけど、大丈夫かしら?」
「うん。パパも大丈夫だよね?」
わたしがパパの方を振り向いてそういえば、パパも頷いてくれる。
待っている間、わたしはパパとママと一緒に沢山話をした。
家族で楽しく話していると、時間ってすぐ過ぎていく。退屈な気持ちを一切感じずに、ただただ幸福な時間が過ぎていく。
「それでね――」
そうやって会話を交わしていたら、目の前の光景が急に変わった。
その場の魔力が変わる。水色だったその結晶の色が、徐々に変化していく。それと同時に不思議な音が鳴っているのは、自然の魔力の変化によるもの? なんらかのものが作用して、こういう不思議な光景が目の前で見られているってことなのかな?




