夏の日、ママの計画で旅行に出かける ⑫
朝は早い時間に目が覚めた。パパとママもまだすやすやと眠っている。
こうして寝ている様子も二人とも凄く綺麗で、お似合いだと思う。
わたしは恋ってどういうものか分からない。でもママはパパのことが好きなんだよね。パパもママのこと、嫌ってなくて、寧ろ家族として認識していると思う。
恋をして、結婚して、家族になるというのがよく物語でみる展開。
パパとママの家族の始まりってそれとは違うけれど、そういう物語みたいに仲良くなって欲しいなって思う。……まぁ、二人とも長生きだからそうなるまでどのくらいかかるか分からないけど早くそういう姿見たいなぁなんて思う。
眠っているママの顔をじーっと見る。
ママって綺麗だなぁ。わたしも大人になったらママみたいに綺麗になれるかな?
ママの髪に触れてみる。さらさらだなぁ。わたしとパパの真っ白な髪とは正反対の黒色。
幾らでも触っていても飽きないぐらいさらさら!
そうしていたらママが目を覚ました。
「ベルレナ、何をしているの?」
「ママの髪、さらさらだなーって」
「ベルレナの髪もそうじゃない」
ママはそう言いながらわたしの手を引いた。そのままママの横に寝転がる。
「ママ?」
「まだ起きるには早いでしょう。もう少し寝転がりましょう」
「うん!!」
確かにママの言う通り、まだお店も開いていないような早朝だ。楽しみすぎてすぐに起きてしまったけれど、まだ早いよね。
それにしてもママからこうやってもう少し横になろうと誘われるだけでも、ママと仲良くなれたんだなって嬉しくなった。
初めて会った時はもっとママと距離があったけれど、今はすっかりこうやって距離が近くなっている。
「ベルレナは、二度寝は出来なさそうね……」
「うん。ママと寝転がるのは楽しいけれど、楽しみだなってばっちり起きているの」
「そう。じゃあ、一緒に話しながらディオノレが起きるまで待ちましょう」
「うん。でもママは眠いんじゃないの?」
「私も目が覚めたから大丈夫よ」
ママがそう言ってくれたので、寝転がりながらママとおしゃべりをすることになった。
「ママ、昨日の魚美味しかったね」
「ええ。美味しかったわね。ベルレナは釣りのことも随分気に入ったみたいね」
「うん。やったことなかったから楽しかった。ママって釣りも上手なんだね。昔から結構やっていたの?」
「昔は旅をしていたから、自分でなんでも用意しなければならなかったの。旅の間に食べるものがなくなったらそのまま餓死してしまうもの」
「餓死……って、お腹がすいて死んじゃうってことだよね」
「ベルレナ、凄い顔しているわ」
「だって……お腹がすいて苦しくなるって想像しただけでなんか怖いもん」
「大丈夫よ。あなたがそんな目に遭うことはないわ」
ママはわたしの言葉にそう言って、わたしを抱きしめてくれた。
わたしはお腹がすきすぎて苦しいって状況になったことはないけれど、そういう目に遭っている人は確かにいるらしい。ママもそのくらいお腹がすいていた時があるって言っていた。
それにしてもママに抱きしめてもらえると凄くほっとする。
「ママが抱きしめてくれるとほっとするね」
「ふふっ。私にそんなことを言うのはベルレナぐらいよ」
「そうなの?」
「ええ。どちらかというと私は周りから怖がられることが多かったから」
「ええ? ママはこんなに優しくて可愛いのに?」
ママはとっても魅力的なの。優しくて、可愛くて。それでいて魔導師で。
うん、ママって本当に凄い人だと思う。街に出かけた時もママはちらちら周りから見られていたし、怖がられていたと言われてもぴんと来ない。
「ベルレナが可愛いから、今の私がいるのよ。こんな私のことを母親として受け入れてくれて、あなたが笑っているから私もよく笑うようになったのよ。ディオノレに好意を伝えることも出来ずに、むすっとしていたと思うわ。だからベルレナが私を可愛いって言ってくれるのなら、それはベルレナの影響よ」
少し照れくさそうにしながら、ママはそんなことをいう。
パパもママも、わたしのおかげだってそんな風に言ってくれる。
「わたしもね、ママがいてくれて凄く嬉しいんだよ。ママが居て楽しいからにこにこしちゃうの。だから、お互い様だね!」
「そうね。……今の私は幸せだから笑ってしまうの。だから前より怖がられてない気がするわ。もちろん、私が力を見せたら怖がられるでしょうけど」
「魔導師だって知らない人にも怖がられてたの?」
「そうね。ほとんど街に出ることもなかったからというのもあるけれど、なんていうか……周りが近づいてこないようにしていたもの。まぁ、それに関してはディオノレとベルレナが居ない時だと今もそうだけど」
「そうなの?」
「ええ。それはディオノレも一緒だと思うわよ。ベルレナが隣にいる時と、そうじゃない時違うもの」
周りが近づきにくい雰囲気を醸し出しているママ。
……うーん、あんまり想像出来ない。確かに最初に会った時のママは、ちょっとそういう雰囲気があったかもしれないけれど。
わたしが居ない時の、パパとママ。
どんな風に違うのだろう? とちょっとだけ気になった。
そしてそんな会話を交わしているうちに、パパが目を覚ました。




