夏の日、ママの計画で旅行に出かける ⑧
釣り竿を早速借りてみる。
釣りなんてやったことがないので、それだけでなんだか楽しい気持ちでいっぱいになる。
木でつくられたその釣り竿は、案外重い。竿の種類によっては軽いものもあるみたいだけど、この場で借りられるものは重めのものが多いみたい。というか、子供はあまりここで釣り竿を借りること少ないみたい。
わたしはその中で軽めのものを借りたけれど、うん、こういう長い物ってバランスを取るのが結構難しい。
わたしの身長、伸びてきたけれどパパやママよりは全然低い。だからちょっと持って歩くとよろけそうに一瞬だけなった。でもちゃんと気をつけて歩いたら大丈夫だったけれど。
餌は生きている細長い生物だったりして少し驚いた。
「釣り餌はこういうものを使うことも多いのよ。ベルレナは自分でつけれる? 難しそうなら私がやるけれど」
「ううん。大丈夫!」
「ならよかった。こういう餌を気持ち悪いからと触れられない子も多いのよ」
「そうなんだ。ママって釣りも結構やったことあるの?」
「昔やったことがあるだけよ。最近では全くやっていなかったから久しぶりだわ」
ママはそう言いながら笑っている。パパも餌を準備して、釣りを早速始めている。パパの釣り姿も様になるなぁって見ていて楽しくなった。わたしのパパって何をしていても似合うんだよ!
ちなみにね、釣りで餌に使うものって小さい魚を使うこともあるみたい。それは大きな魚を釣る場合みたいだけど。
パパの真似をして海の方に餌の部分を投げてみる。……失敗した。
変な所に魚をひっかける部分が、引っかかってしまった。
釣りって案外、初めてだと難しいのかも。
パパもママも軽い調子で釣りを始めているから、軽く出来るかと思っていた。
「ベルレナ、こうだ」
パパがやり方を教えてくれたので、再度挑戦してみたら上手く海に垂らせた。
すぐに食いついてくれるのかな? と期待したけれど、中々釣り竿に反応はない。まだかまだかと期待して待っていても中々来ない。
ママの竿には反応があって、何匹か釣れているけれどわたしは全然。
「……ママ、全然釣れない」
「落ち込まないでいいわよ、ベルレナ。こういうのは運もあるんだから。ディオノレだって釣れてないでしょう?」
「うん」
「だからのんびり、行きましょう」
ママにそう言われて、わたしは気長に待つことにした。
パパもママも魔法を一切使っていない。魔法を使えば魚を取ることだって一瞬だけれども、折角の旅行を楽しもうとしているからこそ、わたしに色んなことを経験させようとしているからこそ、そうやってただ釣りをやらせてくれているのだと思う。
しばらくパパとママと会話を交わしながら、釣り糸に魚が引っかかるのを待つ。
中々引っかからないので、釣りって早く結果が欲しいという人には退屈なものなのかもしれない。
ただわたしはパパとママと一緒だからこそ、楽しいなって気持ちでいっぱいだった。
早く釣れないかな? とうずうずはするけれど、待っている時間も楽しいかもしれない。
そんなことをしながらしばらく待っていると、ようやく釣り竿が反応した。魚を引き上げるのには力がいったけれど、最初の一匹が釣れた。
「パパ、ママ、見て! 釣れたよ!!」
見れば分かることだけれども、なんだか嬉しくなって二人に報告する。
二人が笑ってこちらを見ていることが嬉しかった。大きい声を出してしまったから、他にも釣りをしていた人たちから注目を浴びてしまったけれど……。
しばらく三人で釣りをした結果、一番成果が良かったのはママだった。
ママは釣りの才能があるのかな? 本人は「たまたまよ」と言って笑っていたけれど、初めて釣りをしたわたしからすれば凄いなって思って仕方がなかった。
釣りを終えた後、昼食をそのまま作ることになる。
普段から魚を捌いて、料理をしている人たちからその方法を教えてもらえるのは嬉しいな。
基本的にそれはわたしとママが習った。
パパも一緒にやっていたけれど、お手伝いって感じだった。
「お嬢さんは包丁の扱い方が上手いね。普段から料理を作っているの?」
「うん! パパとママに美味しいもの食べて欲しいから」
教えてくれたお姉さんの言葉にそう答える。
わたしはパパとママのことが大好きだから、色んな料理を作れたらとそう思っているのだ。ベルレナになってから食材の扱い方とか、作ったことのない料理を学んだりしているけれど、料理って奥が深い。
わたしの知らない食材が世の中には沢山あるし、料理だってそう。
そういうのを知ることが出来ると、凄く楽しいと思う。だから今、私はとっても楽しい!
完成した料理は三人で仲良く食べた。
自分で釣ったものをこうやって料理して食べられるのって凄く達成感あることだなって思った。
「ママ、凄く楽しかった! ありがとう」
「楽しんでもらえたならよかったわ。私も楽しかったわ」
食事を終えた後、お礼を言ったらママも笑ってくれた。
「パパはどうだった? 退屈じゃなかった?」
「ああ。俺も楽しかった」
パパはどうだったかなと思って聞いたら、パパも笑ってくれる。
右手にパパ、左手にママ。わたしたちは三人で手をつなぎながら、街を歩き、感想を言い合うのだった。




