夏の日、ママの計画で旅行に出かける ⑥
「船での移動、凄く楽しかったね!!」
数日間の船旅はあっという間に終わってしまった。
その間にちょっとしたことは様々起きたけれど、大きな出来事は特になかった。船での移動は危険が起きる可能性も高いけれど、その時に必ず何かが起きるとかそういうわけではないのだ。というか、そんなに毎回何かが起きていたら誰も船での移動なんてしないだろうしね。
船に乗っていた間、見たことのないものを沢山見れて楽しかった。
だけど、こうして地上に降り立つとほっとする。
パパとママが船を降りる手続きをしてくれて、一緒に船を降りた。冒険者の人たちはママが凄い魔法使いだから、魔法を教わりたいと言っていた。それだけの魔法の腕があるのならば教鞭をとることも出来ると勧誘していたけれど、ママは断っていた。
「パパ、ママ、この街にはどのくらい滞在するの?」
辿り着いた海に面した街。活気の溢れるその街は、それなりに観光客の姿も見られた。
船に乗り込んだ街は閉鎖的で視線が冷たかったけれど、此処はそうではないみたい。同じ海に面した街でも色々違う名と思った。
「ジャクロナ、どういう予定だ?」
「これから数日間、この街で過ごす予定よ。ただ二人がもっと滞在したいというのならば、予定調整は出来るわ」
それにしても今回の旅行は本当にママ主体なんだなって思った。パパも詳しい日程を全然把握していないもん。
この街での数日間、どんな楽しいことが待っているかな?
そんなことを考えるだけでわたしは凄くワクワクしてしまった。
まずはママが事前に調べていたという、宿で手続きをすます。その宿は大きくて、とても綺麗だった。貴族とかも泊るところみたい。お金もかなりかかるところみたいだけど、ママは躊躇せずに支払いをしていた。
それにしてもパパもママもお金を使う時はびっくりするぐらい大金をどんどん使ったりする。なくなったりしないのかなと聞いたこともあるけれど、パパもママも長い間、外に出ずに過ごしていたからそういうお金は沢山あるみたい。
それに本当に尽きたら魔物退治でもして稼げばいいって言っていた。魔導師である二人は他の人よりも、貴重なものを沢山持っていたりするし、そういうので困ったことはしばらくないみたい。
値段の高い宿だからこそ、そこに仕えている人たちもまるで貴族に接するかのように私に接していた。
お嬢様と呼ばれて恭しく対応されると、なんだかベルラだった頃のことが頭を少しよぎった。本当に少し思い出しただけだけどね!
この宿に泊まっている他のお客さんは、貴族や大商人など、お金に余裕がある人ばかりみたいだった。でも貴族の人たちは貴族としか関わる気はないみたいで、それ以外の人たちは同じ場所に泊まっていても気に食わないみたいだった。
この街って貴族たちが夏のバカンスで訪れる場所でもあるんだって。だからこの時期は結構お金持ちの子供が多くここにはいるみたい。
「ライジャ王国の貴族たちの間では使い魔を持つのが流行っているらしい」
そんな会話がその貴族たちから聞こえてきて、へぇって思った。
この街はライジャ王国と国を一つはさんだ向かい側にある国である。ちょっと距離はあるけれど、わたしの故郷であるライジャ王国の噂はこの国にまで来ているみたい。
地図で見たけれど、ライジャ王国って広いもんね。
王侯貴族は、他国の情報も知っておかなければいけないだろうからそういう情報を仕入れているのだろう。
この宿には使い魔を売る商人たちも訪れる予定らしいというのをその貴族たちの話が聞こえてきて知った。
その商人にはユキアの存在を絶対に知られない方がいいってママに言われた。ユキアみたいに珍しい使い魔を貴族に売るために手に入れようと色々接触してくる可能性があるかもしれないからって。
そういうわけで、その商人が宿に来る際はお出かけしておくか、部屋にこもっておくかという話になった。
わたしたちが船旅を終えてこの街に辿り着いたのは夕方だったので、その日はゆっくり宿で過ごすことになった。
夕飯に関しても宿でとれるみたい。というか、わざわざ部屋まで運んでくれる形だった。
今日は宿で夕食をとるけれど、明日は外でも食べようって話になった。ママは宿の食事以外もわたしとパパに楽しんでもらいたいって思っているみたい。
「パパ、ママ、美味しいね」
夕食は珍しい魚を使った料理だった。わたしは名前を初めてしったもので、その金額を食事をしながらパパに聞いてびっくりした。
だって普通に外で食事をするよりも何倍も高かったから。パパもママも何度もその魚を食べたことがあるらしくて、やっぱり二人とも凄いなぁって思った。
美味しい夕食を食べた後は、お風呂につかった。ママと一緒にお風呂に入ってゆっくりしていると、すぐに眠たくなってくる。
「明日は、何処に連れて行ってくれるの?」
「それも秘密よ。明日になってからのお楽しみね。ベルレナ、眠いなら寝なさい」
「でも折角の旅行だから、もっとおしゃべり……」
「そういいながら目が閉じているじゃない。子守歌を歌ってあげるわ」
もっとおしゃべりしたいなと思ったのは、まだ寝るには早い時間だったから。でも船旅ではしゃいでしまって疲れたのか、わたしはうつらうつらしてしまった。
ママがそんなわたしの頭を撫でながら子守歌を歌ってくれて、優しい歌声に気づいたらわたしは眠りについていた。
意識が遠のいていく中で、パパとママが話している声が聞こえてくる。何の話しているんだろう? なんて思ったけれど、それを知る前にもうわたしは眠っていた。
 




